不動産活用ネットワークは、不動産オーナー様が直面している課題に対して最短最適な解決策を提供するため、企業の垣根を越えて協力し合うことを目的とした不動産業のプロ集団です。 この『対談』では、毎回テーマを決めて、日々オーナー様から寄せられる「お悩み」や「お困りごと」に対し、【専門家による多角的な視点での解決策】をお伝えしていきます。
令和4年(2022年)12月16日に、与党より「令和5年度税制改正大綱」が公表されました。マスコミ報道などで、「暦年贈与が使えなくなる」のような情報を目にされた方も多いと思います。今回は、税理士法人で資産税の専門家として様々な事案に触れ、諸問題を解決に導いているあいわ税理士法人の佐々木梨絵と、日々、管理会社の立場で不動産オーナーから相続や継承に関する課題に向きあっている株式会社ハウスメイトマネジメントの伊部尚子が、新たな税制にどう対処すべきかなど、具体的な対応方法などについて対談しました。
税制改正で生前贈与は無意味に!? ~7年前まで遡っての相続税課税とは…
伊部
今日は、よろしくお願いします。
佐々木
こちらこそよろしくお願いします。
伊部
2023年の税制改正で、相続や贈与に関わる税金に関しても大きな変化がありました。新聞やテレビニュースなどでも大きく報じられていることもあって、不動産オーナーからのお問合せが増えています。今回は、その辺りのことをお聞きしたいと思っています。
佐々木
確かにマスコミを賑わしていますが、日々相続税や贈与税――いわゆる資産税に関わっている立場から見ると報道が少し過熱気味かな?という感じがしています。
伊部
そんなに心配することはない?(笑)
佐々木
はい(笑)
伊部
最近よく、オーナーからご質問をうけるのが「暦年贈与」と「相続時精算課税制度」のどちらを選べばよいのか?です。
佐々木
今回の税制改正では、生前贈与加算の対象期間が、相続開始前の3年以内から7年以内に延長されることになりました。これが大きく報道されて「もう、暦年贈与は使えない!」と世間では思われてしまっているようですが、そうではありません。
伊部
実際、そう思っている方が多いと思います。
佐々木
実は、注目すべきポイントは、相続時精算課税制度に基礎控除の110万円分の枠が追加されたことにあります。
伊部
相続時精算課税制度を利用しても、これまでの暦年贈与と同じように110万円以下ならば税金がかからない?
佐々木
そうです。しかも相続時精算課税制度の非課税枠110万円は暦年贈与のように7年間分を遡って課税されることはありません!
伊部
マスコミが、暦年贈与の対象期間を7年に延長したことをセンセーショナルに報じるから注目が集まりがちなだけ。相続時精算課税制度がよい方向に変わっているんですね!?
佐々木
そうだと思います。
暦年贈与と相続時精算課税のどちらがおトク? ~その判断基準と活用方法とは!?
伊部
オーナーとしては、少しでも税金を安くして、できるだけ多くの資産をお子さんやお孫さんに引き継いでいきたいと思っていらっしゃいます。
佐々木
その思いは、誰もが同じですね(笑)
伊部
(笑)
暦年贈与の仕組みがなくなってしまうわけではないんですよね?
佐々木
はい。
伊部
具体的には、どういった方が暦年贈与を選んだほうがよくて、どういった方が相続時精算課税制度を選んだほうがよいのでしょうか?
佐々木
これは、相続までの期間によって判断が分かれてきます。要するに、これからどれだけ生きられるのか?によって変わってくるんですが、人の寿命は誰にもわかりません。
伊部
当社の場合、ご相談者は80代の方が多い状況です。
佐々木
男性の平均寿命は81歳、女性は87歳といわれています。
伊部
人生100年時代と考えれば、80歳でもあと20年あるけれど、もっと短いかもしれない。
佐々木
そうなんです。暦年贈与を選択して7年以内に亡くなってしまうと全て相続財産に加算されてしまうので、全く意味がなかったことになります。一方、相続時精算課税制度を選んだうえで、毎年110万円の贈与をする場合、その部分に関しては、贈与時も相続時も税金は一切かかりません。
伊部
分かりやすくいうと、これから7年以上生きるか?ということなんですね!?
佐々木
実務的には、ご本人であるオーナーさんを前にしては、大変申し上げづらいことですが、そういうことになります。
伊部
例えば、オーナーがまだ60代であれば、暦年贈与で毎年資産を引き継いでいって、何かしらの健康問題が発生した時点で、相続時精算課税制度に切り替えていく。
佐々木
平均寿命から考えると、ある意味それが正しい選択になります。健康に不安があるお父様からの贈与は相続時精算課税制度、平均寿命が長いお母様からの贈与は暦年贈与と贈与者によって選択することも可能です。ただ、一旦、相続時精算課税制度を選択すると同じ贈与者からの贈与には暦年贈与が使えなくなるので、じっくり考える必要があります。
伊部
暦年贈与は、相続までに猶予がある方にメリットが大きいことが分かりましたが、相続時精算課税制度は、どのような方にお勧めですか?
佐々木
まず、そもそも相続税がかからない方や、毎年110万円の非課税枠で資産を徐々に引き継いでいけば相続税がかからない方で、子ども世代に資産を早めに引き継いでもいいとお考えになる場合にはお勧めします。
伊部
今までだったら、贈与税の支払いが必要だった金額でも無税で引き継げるから、それを活かす。
佐々木
例えば、親御さんから相続時精算課税制度を選択して非課税で2,000万円を贈与されたとします。そのお金で住宅ローンを繰り上げ返済して完済できたとすると、毎月の返済が無くなり、今後、支払うべきだった金利負担もしなくてよくなります。
伊部
住宅ローンの支払いがなくなる!? しかも、支払うべきだった金利負担も不要。子ども世帯の生活が一変しますね。
佐々木
親世代としても老後資金は心配かもしれません、だた、単に銀行に預けてあるだけならば、お子さんやお孫さんのことを考え、新たな税制を活用したこの選択肢を検討する価値はあるかもしれません。
相続時精算課税を選択するうえでの注意点!
伊部
暦年贈与と相続時精算課税のどちらを選ぶか考えるうえで、ほかに注意すべき点はありますか?
佐々木
実は、暦年贈与の生前贈与加算の対象者は法定相続人のみ。すなわち、奥様やお子さんだけで、お孫さんは含まれません。
伊部
暦年贈与でお孫さんに資産を引き継いでいけば、7年以内に亡くなってしまったとしても遡って相続資産に加算されず、相続税を請求されることがないということですね。
佐々木
そうです。
人生で大きなお金が必要となる場面は、家の建築と教育資金のふたつです。
伊部
祖父母世代からお子さん世代に資産を渡しても、家の建築を除くと、実際に使われるのはお孫さんの教育費。それならば、税金の面も考えて、直接お孫さんに渡したほうがよい。
佐々木
はい。
伊部
実際のご相談があった例ですが、2人お子さんがいらして片方にしかお孫さんがいないということがありました。
佐々木
そういった場合は、お孫さんがいる場合はお孫さんに、いらっしゃらない場合はお子さんに資産を引き継ぐ。そのうえで、もしも相続税の支払いが発生したら収めていただくようにする。先々どうなるかは、その時点では誰にもわかりませんし、そんなに不公平感はないと思います。
伊部
先日、フドカツの仲間であるアイザワ証券さんとの対談でも相続における公平性の話がでましたが、税金面から考えても同じようにキリがない…。
佐々木
やはり、限界はあると思います。いま、証券という言葉がでましたが、株式や土地など価格が変動する資産は、今後の価格変動についても考慮に入れる必要があります。
伊部
アイザワ証券さんとの対談では、現金と違って株式は価格が安いときに資産を引き継ぐと税金が少なくて済むメリットがあるというお話しでした。
佐々木
それは、お話しのとおりで、相続時精算課税制度を使って株式を贈与した場合においても同様です。
伊部
でも、今の時点では安いと思っていたけど、将来もっと安くなってしまうということもありえる!?
佐々木
そうなんです!
相続時精算課税制度を使って株式を贈与した時点で評価額が決まります。相続発生時に株価が上昇していれば、評価額を圧縮でき税金が安く済んだことになりますが、逆に下落してしまうと、あの時に贈与なんてしなければ良かったのに……という結果になってしまいます。
伊部
今よりも高い評価額の税金を払わなくてはいけない。でも、株式も不動産も将来値上がりするかは誰にも分からない……。
佐々木
難しいところですね。あと、相続時精算課税制度を選ぶうえで注意しなくてはいけないのは管理面です。同制度を選択した時点から相続が発生するまで何年あるかわかりません。その間で誰にどのような資産をいくら引き継いだのかを整理してまとめて管理しておく必要があります。
伊部
税理士をいれず、ご自分で資金を管理されているようなオーナーにとってはハードルが高いかもしれません。
佐々木
しかも、相続が発生するということは、状況を把握されていたご本人がいないという可能性が高い。
伊部
兄弟や姉妹間でもお互いにいくら貰ったとかまで、把握していないこともありえます。
佐々木
となると、課税される相続財産の総額さえもはっきり分からないことにもなりかねない恐れがあります。
伊部
相続時精算課税制度を選ぶ場合は、専門家に管理をしてもらう必要がありそうですね。
佐々木
令和9年まで猶予があるので、じっくりお考えになられるのがよいと思います。
あいわ税理士法人 佐々木梨絵
株式会社ハウスメイトマネジメント 伊部尚子
~ 後編に続く ~
※前後編の2回にわけてお届けしています。後編は、
【不動産オーナーが注意すべき資産税の特例制度】をお送りします。