対談インタビュー

多様化する社会~賃貸ニーズの変化と老朽化問題

不動産活用ネットワークは、不動産オーナー様が直面している課題に対して最短最適な解決策を提供するため、企業の垣根を越えて協力し合うことを目的とした不動産業のプロ集団です。 この『対談』では、毎回テーマを決めて、日々オーナー様から寄せられる「お悩み」や「お困りごと」に対し、【専門家による多角的な視点での解決策】をお伝えしていきます。

ビルやマンションオーナーにとって欠かすことのできないメンテナンス業務。今回は、ビルメンの最前線で建物の設備管理と効率的な管理運営を実施するTMES株式会社の黒田康裕と、管理会社の立場で不動産オーナーから不動産の更なる利活用などに関する課題に日々向きあっている株式会社ハウスメイトマネジメントの伊部尚子が対談しました。

前編は、【環境志向の高まりと高度化するオフィスビル経営】をテーマにお届けしました。
まだ、前編をご覧になっていない方は ⇒ コチラ

内 容

▼社会の変化と多様化で変わる賃貸経営
 -LGBT推進や外国人労働者の増加
 -メンテナンスの重要性

▼建物老朽化への対応策
 -材料高騰&人手不足でリフォームが進まない?
 -更新タイミングが家賃値上げのチャンス!?

▼公共施設にも迫る老朽化と新たな流れ
 -進まぬコンパクトシティ
 -社会機能が融合したビル空間の誕生

社会の変化と多様化で変わる賃貸経営

伊部
前編で、賃貸経営に求められる環境対応について、世の中の変化にともなう建物管理の高度化などについてお話しをいたしました。後編では、LGBTという考え方の浸透や外国人労働者の増加など、コロナによって変化した社会的な状況や働き方など「多様化する社会における賃貸経営」について掘り下げていきたいと思います。

黒田
ジェンダーレストイレなどが話題になっていましたが、グローバル化や多様性に伴ってビル館内のサインを取り上げてみても、多言語化することやピクトグラムを活用するなどの動きが出てきています。

伊部
考えてみると駅構内などの経路案内や商業施設などの案内板なども、かなり多言語化が進んできていますね。住宅の場合は、LGBTカップルの受入についてはかなり進んできました。

黒田
その部分は、オフィスビルよりもアパートやマンションの賃貸経営ほうが、一歩先をいっているかもしれません。

伊部
なかには、積極的にLGBTカップル向けの相続対策セミナーなどを開催している不動産会社もあります。

黒田
そうなんですか!?

伊部
はい。オフィスビル業界も同じかもしれませんが賃貸用マンション業界でも色々な差別化が図れています。コロナ関連での動きは如何ですか?

黒田
テレワークが推進されたことによって企業がオフィス面積の縮小をしたり、個人がどのデスクを固定しないフリーアドレスを採用したりする事例が増えました。

伊部
オフィス縮小の影響は、賃貸住宅需要のほうにも及んでいます。自宅内で働くための空間が必要になったことで郊外のより広い物件に引っ越される方が増えました。しかも、在宅勤務によって通勤することが減ったこともあって駅チカである必要性も下がりました。

黒田
新しい働き方が定着し始めたことで、オフィスビルにも賃貸マンション市場にも変化が生まれたのは確かですね。

伊部
でも、都心部では再開発で大規模な高層オフィスビルの建設が進んでいる印象があります。

黒田
新築の供給はまだ伸びているため、ますます競争は激しくなっていくと思います。地名がブランド化している地域や交通の利便性のよいところとそうではない地域という二極化が進んでいくことは避けられないかもしれません。

伊部
郊外への引越しが進む一方、賃貸住宅の世界でも駅チカにタワーマンションというの風景が当たり前になってきています。

黒田
駅が近ければ移動も買い物も便利なのは確かです。しかし、だれもが超高層マンションに住みたいわけでもありません。物件オーナーの方にお伝えしておきたいことは、オフィスビルでもマンションでも同じですが、入居者やテナントから選ばれるようにするために、定期的に健康診断をするのと同じように常に建物の状態を把握して、やるべき手入れをしておけば、よほどのことがない限り資産価値は落ちないということです。
そして、オフィスビルを例にあげると、スグに入居できるように内装したうえデスクやキャビネットなどの家具付きで募集をしている物件など、創意工夫で差別化を図って入居率を向上することも可能だと思います。

伊部
先ずは、建物の健康診断を欠かさず、お化粧して準備しておく(笑)

黒田
はい(笑)
都心部のオフィスを縮小した分、郊外にサテライトオフィスを設置するといった例もありますから、今後、これまで想像もしていなかった物件の使われ方が生まれてくる可能性があるかもしれません。

伊部
まだ見ぬ需要のためにメンテナンスと管理をしっかりして準備を整えておくということですね。

建物老朽化への対応策

伊部
今回、黒田さんに是非お聞きしたかったのが建物の老朽化についてです。

黒田
これは、オフィスビルとマンション共通の課題です。バブル時代の建物は比較的余裕をもって建てられているので、まだよいのですが、それより前の物件のなかには、しっかりと維持しようにもかなり厳しいものもあります。

伊部
そうなんです。配管を交換しようと思ったら、コンクリートに埋め込まれていたなんてこともありました。建築した当時の図面がないということもよくあります。

黒田
そういえば、当社が管理する賃貸住宅で、外資系企業が駐在員のための高額物件に備え付けの外国製の家電が古くなったので交換しようと思ったら、そのメーカー自体が倒産してその家電が無く、代替品も備え付けのスペースにサイズが合わないということもありました。

伊部
設備の入れ替えで済むはずが、建物側のリフォームの必要がでてくるかもしれない事態。しかも、最近は材料価格が高騰してしまって、更には入手も困難。くわえて人手不足で職人が集まらなくて工事が進まないことにも悩まされています。

黒田
思い切って建て替えをしようにも建築コストがあがってしまい想定している家賃では採算があわなくなってしまう事例もあります。

伊部
修繕も限界があります。古くなれば、やはり家賃も下げざるをえなくなってしまう部分があります。

黒田
しっかりと管理しつつリフォームすれば居住性や使い勝手の向上が図れます。ちなみにオフィスビルでは、そのタイミングを見計らって家賃の値上げ交渉を進めるようにしています。

伊部
リフォームを更新タイミングにあわせる。

黒田
オフィスビルの場合は、賃料の値上げ交渉のネタになります。賃貸契約の更新時期を見計らって、前倒ししたり、先送りしたりしています。そうすればオーナーも「経費」ではなく「投資」になりますので。

伊部
そこは管理会社の腕の見せどころですね。

黒田
あとは、国や地方自治体が実施している「補助金制度」などをうまく活用することが重要です。例えばマンションの共用部の照明をLEDに変える場合などは補助してもらえると思います。ただ、不動産オーナーの方が個人であれこれ調べるのも現実的ではありません。このあたりも設備管理に強みを持つ我々のような立場の人間がお役に立てる部分であると思います。

伊部
結構、申請手続きも面倒だったりしますよね。

黒田
毎年条件がちょっとずつ変わったりすることもあるので、やはり専門家に任せるのがよいと思います。

伊部
補助金使って老朽化対策、私も調べてみます。

公共施設にも迫る老朽化と新たな流れ

黒田
老朽化の話がでましたが、全国の公共施設でも建物の劣化が問題になっています。確か先日地方自治体とお仕事をされていらっしゃいましたよね?

伊部
ある自治体の小学校を数校まとめて設備管理する業者を決めるプロポーザルの選定委員に任命され、無事に役目を果たしてきました。

黒田
前編で法令遵守が求められているとお話しをしましたが、民間の建物と違い公共施設の場合は建築基準法や消防法のみならず、国家賠償法やら教育施設の場合は学校法なども関わってきます。しかも、ハコモノ行政と揶揄されてきたとおり、有効活用されていない施設が地域に満遍なく建てられている状況であり、老朽化が進んでしまっています。

伊部
行政は公平性を重視するので、地域ごとで差別をするわけにはいきません。行政の方と接する機会が増えてくると、予算が年度ごとに決められていたり、議会の承認が必要なことなどがよく分かってきて、改革を進めることも容易ではないことを痛感しました。

黒田
そういう意味では民間の方が動きやすいといえますね。
地方では、街の中心部に社会的な機能を集結して人を集める「コンパクトシティ」を進めている例もありますが、規模が大きいこともあってすべてが順調というわけではありません。

伊部
住む場所というのは愛着や地域のコミュニティなどもあるので、便利だからよいという単純なものではないですからね。

黒田
同感です。

伊部
けれども、一方でやはり便利さも重要な面もあります。賃貸住宅の場合、学校までの距離や近くに図書館や児童館があるなど、公共サービスが利便性よく使えるかどうかは結構重要な判断材料のひとつです。

黒田
それが老朽化によって使えなくなってしまうと想像以上に影響が大きいかもしれませんね。

伊部
そうなんです!

黒田
古い建物でもしっかりと計画的にメンテナンスをしていれば大きなトラブルに見舞われる可能性は低くなります。建物をメンテナンスする立場として、精一杯の管理と運営をしていくことは当然であり、古いビルやマンションをできるだけよい状態で長く使ってもらえるようにしたい気持ちもあります。

ですが、社会的な使命を終えた建物は公共も民間も問わず費用は掛かっても取り壊して新たな土地利用を考えるべきだとも思います。

伊部
地域のニーズにあわせることができないなら建替えも視野に考える。

黒田
最新の大規模ビル開発では、オフィス以外に、住宅、ホテル、インターナショナルスクール、商業施設、文化施設など、多様な社会機能を融合させる流れが生まれてきています。

伊部
昔のように会社は仕事するところ、家はくつろぐ場所、遊びはどこへ行ってということではなくなっている。リモートワークによって自宅で仕事をするようになったのと同じく境目が曖昧になってきている。アパートや賃貸マンション経営にとっても、単なる住まいという観点からだけではなくモノゴトを見る必要性を感じました。本日はありがとうございました。

黒田
こちらこそ、ありがとうございました。

《終了》

TMES株式会社 黒田康裕
株式会社ハウスメイトマネジメント 伊部尚子

前編では、【環境志向の高まりと高度化するオフィスビル経営】をテーマに対談していいます。