対談インタビュー

不動産オーナーが注意すべき資産税の特例制度

不動産活用ネットワークは、不動産オーナー様が直面している課題に対して最短最適な解決策を提供するため、企業の垣根を越えて協力し合うことを目的とした不動産業のプロ集団です。 この『対談』では、毎回テーマを決めて、日々オーナー様から寄せられる「お悩み」や「お困りごと」に対し、【専門家による多角的な視点での解決策】をお伝えしていきます。

令和4年(2022年)12月16日に、与党より「令和5年度税制改正大綱」が公表されました。マスコミ報道などで、「暦年贈与が使えなくなる」のような情報を目にされた方も多いと思います。今回は、税理士法人で資産税の専門家として様々な事案に触れ、諸問題を解決に導いているあいわ税理士法人の佐々木梨絵と、日々、管理会社の立場で不動産オーナーから相続や継承に関する課題に向きあっている株式会社ハウスメイトマネジメントの伊部尚子が、新たな税制にどう対処すべきかなど、具体的な対応方法などについて対談しました。

前編は、【税制改正が相続税&贈与税に及ぼす影響と対応策は?】をテーマに、今回の改定のポイント、相続にあたっての注意点やその具体的な対処方法などについての対談をお届けしました。
まだ、前編をご覧になっていない方は ⇒ コチラ

資産税における様々な特例 ① ~おしどり贈与

伊部
前編では、相続時精算課税制度について伺ってきました。後編では、ほかの特例制度についてお話しをしていきたいと思います。当社の場合、ご高齢なオーナーが多いことからか「おしどり贈与」についてのご質問をうけることがあります。

佐々木
正式名は「贈与税の配偶者控除の特例」。婚姻期間が20年以上の夫婦間で、一定の要件を満たす居住用不動産、または居住用不動産の購入資金を贈与した場合に適用される制度ですが、結論からいうと活用する場面はあまり多くないかもしれません。

伊部
やはりそうなんですね。よく「基本的には配偶者には相続税がかからない」ともいいますよね?

佐々木
はい、亡くなられた方の配偶者(夫や妻)の生活を保護するために、配偶者には相続税がほぼかからないように税額を軽減する制度になっています。
目安としては、引き継ぐ財産が1億6千万円を超えない限り、生前におしどり贈与を使って、資産を引き継ぐ意味はありません。お亡くなりになった時点で相続として引き継ぐ。そうすればおしどり贈与で求められる登記に関する費用も不要になってきます。

伊部
なかには、広いお庭があるいわゆるお屋敷にお住いで、小規模宅地等の特例の限度面積の330㎡も超えてくるようなオーナーもいらっしゃいますが……。

佐々木
固定資産税の評価としては、お庭を含めて宅地。けれども、相続税の評価となると違ってくるかもしれません。例えば、広い敷地内で家庭菜園をしていたような場合、相続において、その土地は小規模宅地等の特例に該当する宅地には含まれなかった事例もあります。

伊部
もし、建物の敷地とその周囲だけとなると、330㎡という広さも1憶6千万円という額も超える方はいないかもしれません。

佐々木
このあたりは、相続に詳しい専門家に相談してみることをお勧めします。

資産税における様々な特例 ② ~教育資金贈与

伊部
次に教育資金贈与についてお聞きしたいと思います。実際、お孫さんに教育資金贈与をお考えのオーナーもいらっしゃいます。

佐々木
実は、こちらも無理に利用する必要はありません。ご存じない方も多いかもしれませんが、祖父母がお孫さんの教育資金をその都度出してあげる場合は、もともと非課税です。
教育資金には、学校の授業料や入学金だけではなく、塾やスイミングスクール、自動車教習所の費用、さらに海外留学の渡航費なども含まれています。

伊部
その都度というところがポイントなんですね。

佐々木
そうです。必要な時に必要な額を出してあげる。これは生活費を援助する場合でも同じことがいえます。

伊部
これからお金が必要になるだろうから……とまとめて渡してしまってはいけない。

佐々木
まとめて貰ってしまい一部しか使わないと残ったお金は贈与になってしまい、贈与税の支払いが必要になってしまいます。

伊部
教育資金贈与は、領収証の提出など何かと面倒ということを聞いたことがあります。

佐々木
戸籍謄本など必要書類を揃えて金融機関にいって専用口座を作るなどの手続きも必要になります。
ですので、その都度、祖父母の口座から直接学校なり塾なりに直接振り込んでしまうのが一番。お金の流れが一目瞭然で手間もかかりませんし、税務署から問合せが入っても答えやすい。

伊部
では、教育資金贈与はどういった方にメリットがあるのでしょうか?

佐々木
祖父母がご高齢になったにもかかわらず、まだお孫さんが幼いなど贈る側と受け取る側の年齢差がある場合ですね。

伊部
教育にお金が必要になるのが、まだまだ先という場合。

佐々木
そうです。先々、都度払いできるか不安な時が、教育資金贈与の1,500万円という枠の使いどころです。

伊部
祖父母は、最大で4人いますが、合計で1,500万円でしたよね?

佐々木
はい。
例えば、父方から既に1,500万円の教育資金贈与を受けている場合、母方の祖父母から贈与を受けるとこの制度は使えず一般贈与となってしまいます。
また、教育資金として30歳を迎える口座契約終了までに使い切れなかった残金については、基礎控除額の110万円を超えた分は贈与税が発生してしまいますので注意が必要です。

伊部
上限が1,500万円だからといって、満額である必要もない。

佐々木
はい。
しかも、贈与した方がお亡くなりになった場合に相続税の支払いが必要になります。。もちろん、受け取った側のお孫さんなどが学校に在学中など一定の場合は対象外となります。ただ、お孫さんが相続をする場合、相続税が2割加算されてしまいます。お子さんへの相続であれば加算されずに済んでいたと考えると、必要以上のお金を贈与することは避けるべきです。

伊部
教育資金は、その都度。先に渡すとしても使う分だけ……ですね。

資産税における様々な特例 ③ ~住宅資金贈与

伊部
住宅資金贈与ついてもお聞きしたいと思います。
お子さんやお孫が住宅を購入する際、最大1,000万円までなら贈与しても贈与税の支払いが不要。でも、小規模宅地等の特例が使えなくなるから注意が必要だとよく聞くんですが……。

佐々木
確かに住宅資金贈与を使うと、小規模宅地等の特例――亡くなった方が自宅として使っていた土地については、8割引きの金額で相続してもいいという制度が使えなくなってしまいます。

伊部
詳しく教えてください。

佐々木
子ども世代が親から住宅資金の贈与を受けると、それは必然的に親とは別居して自分の持ち家に住むということになります。これは必然的に、小規模宅地等の特例の「自宅を相続する方が、配偶者もしくは亡くなった方と同居をしていた親族であること」という条件から外れてしまうことを意味します。
要するに、一緒に住んでいた方が引き継ぐ場合、家が無くなってしまってはお困りになるでしょうから、税金をお安くなるようにしますよ……ということに当てはまらなくなる。

伊部
住宅資金贈与を受けて、別居してしまうとこの特例が使えなくなってしまう。

佐々木
そうです。同居していなくても3年以上の賃貸暮らしをしていれば使える、通称「家なき子特例」といわれる制度もありますが、当然ながら持ち家に住んでいれば、こちらも使えません。

伊部
ご自宅の資産価値が高い場合は、相続のことまで考えてお子さんの住まいについても考える必要がある。

佐々木
結婚を機にお子さん世帯と同居するという選択は、時代的に難しくなっているかもしれません。でも、理論上ですが、あえて賃貸暮らしを選ぶことによって将来の税金を圧縮することが可能になります。
あと、注意しなくてはいけないのは、住宅資金贈与を利用する場合は、贈与税がかからなくても必ず申告が必要なことです。

伊部
暦年贈与の110万円のように、その範囲内ならば申告不要ということではない?

佐々木
はい、ですので必ず忘れずに申告してください。

名義預金にはご注意! ~税務調査で指摘されないため対策

伊部
名義預金に認定されると相続税が高くなってしまうという心配もよく耳にします。

佐々木
名義預金とは、「一般的に亡くなった方の名義ではないけど相続財産として申告に含めなければならない預貯金」のことをいいますが、こちらも過度に心配する必要はありません。

伊部
雑誌やネット情報の見過ぎ……?(笑)

佐々木
(笑)
贈った側と受け取った側が「贈与」だと認識していることが重要になります。ですので、名義預金と認定されないためには、口座の名義人本人が印鑑や通帳を管理していている口座に振り込んできちんと記録を残すことが大切です。
収入のないお子さんやお孫さんの場合でも、贈与したことが証明できれば、年齢次第で自己管理の部分の課題は残るにせよ、ある程度の残高があっても贈与が認められれば税務署が名義預金に認定することはないと思います。

伊部
口座のお金を自分で自由に使えて、管理しているなら問題がないということですね。

佐々木
はい。
一番、ややこしいのは奥様の口座ですね。専業主婦で収入がないのに預貯金額が大きいと、そのお金はどこから来たのか?を調べられることがあります。
例えば、親からの遺産相続で得たお金とわかれば、名義預金に認定されることはありませんが、結婚持参金や結婚する前の預貯金ともなると調べること自体が難しくなります。

伊部
そんな昔の通帳も残っていないでしょうし、記憶も曖昧になってくるので、質問されたらあたふたしてしまいそうです。

佐々木
銀行では10年分の口座履歴を保管してくれていますので、それ以前からあったお金なのかは証明することができます。ただ、それも手間ですので、金額が大きくなる場合は夫婦間でもお金の管理はしっかり分けておくべきだといえます。

伊部
実は、奥様は「贈与をしてまで相続税を減らさなくてもよいのではないか……。その時がきたら払うものは払えばよい」とお考えになっているように思えるふしがあります。

佐々木
ご自分の老後の生活もありますし、いくら可愛いとはいえ、わざわざ子どもや孫世代に節税ありきの贈与をすることに抵抗感があるのは当然だと思います。

伊部
やはりそうですよね。

佐々木
不動産オーナーとして収入は多く、支払いは少しでも減らしたいという人情はわかります。けれども、雑誌やネットの情報を見て、変なテクニックに走ってはいけないと思っています。

伊部
やはり、にわか勉強ではなくプロに相談するのが一番だということですね。今回、改めてお話を伺って、分かってはいながらも何となくモヤモヤしていた部分がスッキリしました。

佐々木
オーナーとの信頼関係があるからこそ聞ける本音、実務上でお困りになっているポイントが、今回よくわかりました。

伊部
今後も色々と相談させてください。

佐々木
もちろんです。

《終了》

あいわ税理士法人 佐々木梨絵
株式会社ハウスメイトマネジメント 伊部尚子

前編では、【税制改正が相続税&贈与税に及ぼす影響と対応策は?】をテーマに対談していいます。