不動産活用ネットワークは、不動産オーナー様が直面している課題に対して最短最適な解決策を提供するため、企業の垣根を越えて協力し合うことを目的とした不動産業のプロ集団です。 この『対談』では、毎回テーマを決めて、日々オーナー様から寄せられる「お悩み」や「お困りごと」に対し、【専門家による多角的な視点での解決策】をお伝えしていきます。
不動産管理法人を作るべきか否か?作りならば会社形態はどうすれば良いのか?と悩まれているビルやマンションオーナーは多いのではないでしょうか。今回は、税理士法人で資産税の専門家として多種多様な事案に触れ、解決に導いているあいわ税理士法人の佐々木梨絵と、賃貸不動産オーナー専門の保険のプロとして様々な課題解決を図っている保険ヴィレッジ株式会社の斎藤慎治、そして管理会社の立場で不動産オーナーから不動産の更なる利活用などに関する課題に日々向きあっている株式会社ハウスメイトマネジメントの伊部尚子の3者が対談しました。
▼あなたの資産管理会社、合同会社ではありませんか!?
-資産管理会社に合同会社が多い理由 ~コベナンツ付き融資
-合同会社に潜む相続税リスク
▼合同会社が絡む相続は税金が高くなる!? ~合同会社の相続は二重課税リスク!
-生涯現役という不動産オーナーのリスク
-不動産管理会社が果たすべき使命
あなたの資産管理会社、合同会社ではありませんか!?
伊部
不動産をお持ちの方で、資産管理会社を設立されている方も多いと思います。今回は、その中でも会社形態が合同会社の方が気をつけるべき点などについてお話し伺っていきたいと存じます。
佐々木
合同会社は2006年から導入された比較的新しい会社形態になります。法人設立時の費用が安いことや、株式会社の場合に必要となる役員の更新にともなう手続きや株主総会にかかる費用なども不要になることから、コストを低く抑えられるというメリットがあります。
斎藤
不動産の世界では個人投資家が収益物件を購入する際、金融機関が積極的に合同会社設立を奨励してきたことによって増えてきたという背景があります。
伊部
当社の管理物件でも合同会社が法人として所有している割合は多いですが、なぜ金融機関は個人ではなく合同会社の設立を推奨するのでしょうか?
斎藤
コベナンツ付き融資といいますが、金融機関に比較的有利な条件(財務制限条件)を課すことにより、個人には提供できない条件での融資が可能になるからです。当然、物件にもよりますが、投資家の年齢問わず最長35年間、しかもほぼフルローンが可能になるような場合もあり、かなりのメリットがあります。
伊部
不動産投資には追い風になりますね。
斎藤
金融機関にとっては融資額の数%の手数料収入があること。投資家が財務状況報告義務を負うことにより状況把握が可能になることから、焦げ付きを回避できるというメリットもあります。
伊部
個人投資家にとって、長期間借りられて、なおかつフルローンに近くなれば自己資金を使う必要がない。これは勧められれば断る理由がありませんね。
斎藤
そうです。
けれども、制度開始から17年の月日が経って、相続時の問題が浮き彫りになってきています。この辺りのことを税理士であり専門家でもある佐々木さんに伺えればと思います。
佐々木
まず、株式会社でも合同会社でも法人としての評価額は同じになりますが、相続発生時の取り扱いが異なります。具体的には、株式会社は「株式」を相続、合同会社は「払戻請求権」を得るというかたちになります。
伊部
違いをもう少し詳しく教えてください。
佐々木
株式会社の場合、相続で株式を継承することになるので、亡くなった方が有していた議決権を行使したり、利益があれば配当の受取りを継承したりできるようになります。
一方、合同会社の場合は、亡くなってしまうと社員(=出資者)の地位は継承できず、退社となってしまいます。そうなると、出資分に応じて、会社の財産の払い戻しを亡くなった社員が受けることになりその「払戻請求権」を引き継ぐことになります。
伊部
株式会社だったら、株式を相続すれば投資物件からの収益など資産をそのまま引き継げたのに、合同会社だと一旦売却をして、精算しなければいけないということですか!?
斎藤
実際に、私のお客様で売却された方がいらっしゃいました。
伊部
それって、大変なことじゃないですか!?
恐らく、合同会社で不動産を所有しているほとんどのオーナーはご存じないと思います。
佐々木
恐らく、ご存じない方が多いと思います。
そして、もっと気をつけなければいけないのは、合同会社で相続が発生してしまった場合の最大の問題点は、株式会社に比べて税金が高くなる可能性があるということです。
伊部
高くなっちゃうんですか!?
資産をそのまま継承できなくて、税金も高くなるなんて踏んだり蹴ったりじゃないですか。
合同会社が絡む相続は税金が高くなる!? ~合同会社の相続は二重課税リスク!
伊部
合同会社の場合、どうして税金が高くなっちゃうのでしょうか?
佐々木
まず、亡くなった方の出資した分に応じて、その合同会社の資産が払い戻されます。払い戻されるうち、出資分を超える部分は配当とみなされて総合課税の対象となる可能性があり所得税が課税されます。そのうえで、払戻請求権は、相続財産となって相続税の課税対象となってしまうからです。
伊部
所得としての税金と相続としての税金とで2回を払わなくてはいけない!?
斎藤
いわゆる、二重課税になってしまう。
佐々木
そうです。しかも、みなし配当に関しては総合課税ですから累進課税になってしまいます。
伊部
いくら、借入期間が長くなったり融資枠が大きくなったりなどのメリットがあっても、それでは全く意味がなくなってしまいます。
斎藤
多少条件が悪くなっても個人で投資した方がよい可能性すらありますよ。
伊部
金融機関は、お金のプロみたいな意識をみなさんお持ちだと思いますが、気をつけなれればいけませんね。
佐々木
金融機関もお客様にとって融資するうえでメリットがあるから合同会社を推奨しているだけで、悪気があるわけではないと思います。だた、なかなか相続にまで意識はいかないのではないでしょうか。その辺りはオーナーの皆さんがご自分で気をつけていく必要があります。
伊部
株式会社なら、そのようなことにはならないのでしょうか?
佐々木
株式を相続するかたちになるので、所得税の対象にはなりませんから、二重課税のようなことはおこりません。
ただ、先程のお話も原則であって、合同会社でも定款で、社員の持分を相続人が承継できる旨を定めておけば、持分を相続することができ、株式と同じように評価しますので、みなし配当課税はされません。
斎藤
大家さんは生涯現役。これは、とてもよいことなのですが、法人化していても一般企業のように定年がないので、見直しをする機会がないという問題があります。
佐々木
その通りですね。
斎藤
私が関わっている火災保険の場合、更新という見直しのきっかけがありますが、多くの大家さんがあまり深く考えずに同条件で継続してしまっています。
伊部
問題に気づくのは、ことが起きてしまった後になってしまう。実は、亡くなったオーナーの奥様やお子さんが何も把握できていないということは、不動産管理の世界ではよく聞くお話しです。
斎藤
それを大家さんやそのご一族に求めるのは酷ですし、現実的にはありません。ですから、賃貸不動産に関わる誰かが見直すきっかけをつくらなくてはいけないと思います。
もちろん、相続に関する相談なら税理士にするべきということは誰もがわかってはいますが、大家さんも腰が重い。かといって税理士の方々が営業を掛けたとしても、いきなり相続に関するセンシティブなことを相談するとも思えません。
佐々木
やはり、金融機関、税理士ネットワーク、伊部さんのような管理会社などの方からのご紹介などがないとお話が進まないのが現実ですね。
斎藤
私の場合は、保険に絡めながら色々と話をするようにしていますが、この役目は大家さんとの関係も深い管理会社が適任だと思っています。
伊部
責任重大!(笑)
斎藤
でも、管理会社の強みが活かせる分野でもあります。
伊部
確かにオーナーのところにお邪魔すると「ちょっとあがってお茶飲んでって」という関係性があるのは管理会社だけですからね。
斎藤
しかも、合同会社が解散して物件が売却されてしまったら、管理業務1件減ることになりますからね。まあ、火災保険も解約になってしまいますが・・・(笑)
伊部
せっかく、大切に管理させていただいているので、それは残念なことですし、困ります(笑)
斎藤
私も困ります(笑)
佐々木
確かに管理会社の方は、オーナーの価値観や家族構成なども把握されているでしょうから本当に適任だと思います。疑問点やご質問があれば、お気軽におっしゃってください(笑)
伊部
ありがとうございます!
相続に法人が絡んでくると二の足を踏んでしまうようなところがありましたが、とても心強いです!
斎藤
私も相談させていただきます(笑)
佐々木
是非、お待ちしています(笑)
あいわ税理士法人 佐々木梨絵
保険ヴィレッジ 斎藤慎治
株式会社ハウスメイトマネジメント 伊部尚子
~ 後編に続く ~
※前後編の2回にわけてお届けしています。後編は、
【合同会社で管理する不動産資産を安全に相続する!】をお送りします。