加盟社リレー寄稿Q&A

居住用物件を事務所用として貸しても問題ありませんか?

不動産活用ネットワークは、不動産オーナーのお困りごとに対して最短最適な解決策を提供するために、企業の垣根を越えて協力し合うことを目的とした不動産業のプロ集団です 。 Q&Aコーナーではオーナー様からのお悩みと専門家による解決方法をご説明いたします。

今回のご相談

不動産オーナー
不動産オーナー
都内に居住用の賃貸マンションを所有していますが、コロナの影響でワンルームがなかなか決まりません。
そんな中、知人から「事務所として借してもらえないか?」という相談がありました。
部屋を使用するのはその方1人とのことなので、居住用として住んでいる人と変わらないと思いますし、自分としては是非貸したいのですが、注意点があれば教えてください。
伊部尚子
伊部尚子
コロナの影響でリモートワークが普及し、都心の単身物件は空室率が高くなっていますので、借りたいという声があるなら、普段と違うニーズでもオーナーとしては貸したいところですよね。
しかし、もともと居住用として作られている賃貸物件の場合、事務所として貸し出すには、法律面や管理運営面でいくつか注意点があります。
順番に見ていきましょう。

用途地域を確認

建築基準法・都市計画法では、建築物をその用途に応じて適した場所に配置するためのルールがあり、計画的な街並みづくりがなされています。閑静な住宅街に工場が建設されたりすることがないのは、そのルールがあるからです。そのルールを用途地域と呼んでいます。
現在用途地域は13種類に分かれており、用途地域の種類ごとに建てられる建築物が決まっています。第一種・第二種低層住居専用地域、第一種中高層住居専用地域では、事務所は基本的に建築できないルールになっていますので、居住用として建てられた建物を事務所として賃貸することも出来ません。
外側から見て明らかに事務所使用が分かる場合、「違反している」という苦情が役所に入ることもあると聞きます。貸してしまってからそのような事態が起こってしまった場合、すぐ解約していただくわけにもいかず、オーナーの責任になりかねません。
用途地域は自治体のホームページで公表されていますので、お持ちの物件の所在地の用途地域を調べ、事務所が大丈夫な地域なのかを確認しましょう。

固定資産税や都市計画税にも関係

居住用の建物の敷地として利用されている土地は、「住宅用地の特例措置」で土地の固定資産税や都市計画税が軽減されています。賃貸住宅の場合の場合は、戸数×200平方メートル以下の部分が小規模住宅用地となり、固定資産税の課税標準額は固定資産税が1/6、都市計画税は1/3になります。
一棟の賃貸物件に住居として使われている区画と事務所として使われている区画が混じっている場合には、「併用住宅」という扱いとなり、事務所として使われている区画が一定割合以上になると、住宅用地として軽減される土地の面積が減る仕組みになっています。
つまり、もともと住宅だった居室を事務所として賃貸した場合に、ある割合を超えると固定資産税が高くなってしまう場合があるので注意が必要です。
割合の計算式は、「地上階数5以上を有する耐火建築物である家屋」と「それ以外の家屋」で変わってきますので、詳しくは建物所在地の自治体の資産税課のホームページなどで「固定資産税の住宅用地の特例」等で検索してみて下さい。
住居区画と事務所区画の割合の計算方法ですが、共用廊下など居室以外の部分の面積は、各居室の、面積割合で案分して計算します。

消防設備点検にも影響あり!

居住用から事務所用に用途を変えた場合、消防法にも関わってきます。
消防法では建物の用途や使用する人によって建物を防火対象物として十数項目に分類化しており、設置すべき消防設備を定めています。共同住宅は「5項ロ」、事務所ビルは「15項」に分類されます。居住用だった賃貸住宅に事務所用の区画が出来る場合、主用途である居住用区画の床面積に対し、事務所用の区画の面積が10%未満かつ300㎡を越えない場合は共同住宅のままですが、事務所用区画が増えていくと複合用途防火対象物の「16項」に区分され、必要な消防設備や点検項目が変わってしまう場合があります。
また、賃借人1人がワンルームを事務所として使用する場合には建物全体の収容人数は変わりませんが、ファミリータイプの間取りに社員が複数名出勤してくる場合は建物の収容人数が増え、必要な防火管理者が変わってくる可能性もあります。
これらは建物ごとに異なるため、管轄の消防署に相談すると良いでしょう。

火災保険も要注意

建物に掛けている火災保険にも注意が必要です。火災保険では、居住用の建物は「住宅物件」、事業用の区画が1つでもあれば「一般物件」として区別されています。賃借人が加入している火災保険も、事務所として借りる場合では、通常の住居では使わないような設備機器の使用や商品在庫があるなど、リスクが異なるため加入する保険の種類も違ってきます。万一のときに保険金が下りない事態を招かないためにも、居住用物件を事務所として貸し出す場合は保険会社に必ず連絡するようにしてください。

気軽に考えず確認を

このように、居住用物件を事務所用として貸すのは実は簡単ではありません。「事務所用の賃貸借契約書を使って消費税を課税すればよいだろう」と簡単に考えていると、万一の時に困ったことになりかねません。
しかし、ご相談のような、ワンルームに1人で事務所使用するケースでは、建物の使用の実態に大きな変化は起きませんので、今後も事務所として貸すニーズが高いのであれば、一つ一つ問題となる点を確認して必要な手続きを踏んでいけば、不可能ではありません。多少大変でも、長い目で見てメリットがあるならば、挑戦してみて損はないと思います。

 

 

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伊部尚子
伊部尚子
株式会社ハウスメイトマネジメント ソリューション事業本部 課長 賃貸不動産に関わって20年余り。仲介営業、仲介店の店長、管理の現場担当者、管理支店の同社女性初の支店長を経て、現在は金融機関や業界団体等での講演の傍ら、賃貸住宅の企画や収益改善の相談を受ける。上級相続支援コンサルタント、CFP(日本FP協会会員) 、1級ファイナンシャルプランニング技能士 、公認 不動産コンサルティングマスター、DIYアドバイザー