加盟社リレー寄稿Q&A

住宅、オフィス関係なく、将来の賃貸で新たに必要になる要素は何ですか?

不動産活用ネットワークは、不動産オーナーのお困りごとに対して最短最適な解決策を提供するために、企業の垣根を越えて協力し合うことを目的とした不動産業のプロ集団です。 Q&Aコーナーではオーナー様からのお悩みと専門家による解決方法をご説明いたします。

今回のご相談

不動産オーナー
不動産オーナー
都内で賃貸マンション、小規模なオフィスビルなどを保有している不動産オーナーです。コロナを契機に保有ビルに空室が発生し、リーシングをしていますが、巷でも貸室のニーズや貸し方の多様性が見られるようになり、今までの貸し方に捉われない、柔軟な貸し方が必要なのでは、と思い始めています。将来のニーズをうまく捉えた貸し方の事例を教えてください。
須田整
須田整
「ハイブリッドリース」というキーワードをご紹介します。これは一つの貸室を市況の変化を的確に捉え、貸し方のスタイルを変えていくという概念です。たとえば、賃貸マンションの一室を普通の賃貸マンションで貸すのか、そのフロアをシェアハウスやサービスアパートメントのような形態に変化させて貸していくのか、オフィスであれば先日のコラムでご紹介した「セットアップオフィス」で貸し付けるのか、あるいはその貸室だけ別の専門運営会社で運営する「コワーキングスペース」「シェアオフィス」などで運営するのか、貸し方のバリエーションを複数想定しながら、その時々の市場変化に合わせた貸し方を意識ながら賃貸することが今後重要になると思います。

住宅系用途におけるハイブリッドリースの事例

住宅系用途の貸し方を考える上で、賃貸マンションを基本貸し方として考えた場合、類似の貸し方の事例としてはまず、サービスアパートメントでの貸し付けを想定するのが良いでしょう。理由としては通常の賃貸マンションだと専有部・共用部の区画分けが明確になっている構造が多いからです。サービスアパートメントとは、ホテルとアパートの中間の機能をもった住居のことです。敷金・礼金はなく、サービス内容は、水道光熱費、リネン交換、クリーニング、ハウスキーピング、朝食サービスなど多岐にわたり、フィットネスジム、スパなどの附帯施設を利用できる施設もありますが、上記の各サービスが必須とは限りません。一方で元々シェアハウスや民泊のような用途で貸し付けていた建物は構造的に入居者の専用・共用スペースが一体化して備わっている造りになっていることが多いので、ソーシャルアパートメントなどの転用を想定することができます。ソーシャルアパートメントとは、一言で言うとシェアハウスのハイスペック版でしょうか。サービスアパートメント、ソーシャルアパートメントともに通常の賃貸マンション、民泊・シェアハウスなどよりも収益性が向上するケースが多く見られます。

オフィス系用途におけるハイブリッドリースの事例

オフィス系用途の貸し方を考える上で、一般的なオフィスを基本の貸し方として、そこから内装什器備品を設置した「セットアップオフィス」、専門の運営会社がオフィスの1フロアを使い、会員制の「コワーキングスペース」や「シェアオフィス」とする運営形態や最近ですと、決まった曜日ごとに使用できるオフィス、一定の曜日や時間帯ごとにオフィスのほかに会議室やイベントスペースなどに用途で利用させる貸し方など多種多様な貸し方の事例が見られるようになりました。
住宅系用途のように建物内の構造や区画割にとらわれる要素が少ないため、用途のバリエーションとしては間口が広いと思います。

ハイブリッドリースを考える上での注意点

ハイブリッドリースを考える上での注意点、これは住居系、オフィス系用途共通して言えることとして、やはり立地特性です。賃貸マンションからサービスアパートメントの転用を想定しても、その立地にサービスアパートメントの需要がなければ元も子もありません。また、一部屋あたりの広さや部屋のグレード感、家具や備品を設置する上での留意事項なども貸室の運営スタイルにより大きく異なります。まずは想定する用途で運営を行っている専門会社へ、「この立地でニーズがあるのか」ということをヒアリングしてみましょう。
第二の注意点としては「まず収益性の高い用途から狙いを定める」ということです。サービスアパートメントの運営会社の担当者様から聞いた話によると、サービスアパートメントとしての空間の構築、商品作りを進めると同時に、必ずサービスアパートメントの需要が減少し収益性の維持が厳しくなった場合は、直ちに通常の賃貸マンションに移行可能な想定を行っているそうです。まずは最大限高い収益性の貸付を目指し、そこが駄目であれば徐々に低い収益性の賃貸形態に間を置かずシフトしていくことのできる運営構築が重要であると言えます。

貸付条件の固定観念を捨て、サブスクリプションを意識する。

通常の賃貸マンション、通常の賃貸オフィスを貸し付ける際に、契約種別は普通借か定借か、契約期間は2年か3年か、敷金の預託額、保証会社や連帯保証人の有無、その他の賃貸にまつわるさまざまな付帯条件においても、長年重用されてきた定型的な内容が並び、その定型的な条件の一つ一つについて、さほど考慮することなく、貸し付ける側はその条件を機械的に採用してきたことが、貸し方のバリエーションの広がりを阻んでいた一因とも言えます。さらにその一つ一つの条件を機械的に設定することで借り手目線に立った柔軟性のある使用形態について思いを巡らせる余地が与えられなかった経緯があるようにも思えます。
定型的に部屋を「貸す」ということは、いわば所有に近い形で占有的に個別に使用を許すことですが、この固定概念を捨て去り、、同じ空間をさまざまな目的を持った人々のために、自由な時間設定で「利用」してもらう観点を見出すことは、昨今需要が高まっているサブスクリプションの考え方に相通じると言えるでしょう。

市場の振り幅を常に意識し、発想をいつも柔軟に!

私たちは、このコロナ禍の状況を経て不動産市況における大きなパラダイム(転換点)に遭遇しました。一昨年の今頃、誰がこの状況を想像できたでしょうか。不動産にまつわる市況の変化は、これから短期的に大きな変化を繰り返すかもしれませんし、今後このような状況が更に継続されるかもしれません。市場の振り幅が大きければ大きいほど、貸し方についての発想をいつも柔軟に保つことで、市況の変化に即応できる準備ができるのだと思います。今回はハイブリッドリースという概念をご紹介しましたが、さらに多種多様な貸付形態が今後産まれると思います。物件の貸付方法でお悩みのオーナー様、今までとは違った形態で空間を貸してみたいとお考えのオーナー様は是非フドカツまでご相談ください。

 

 

ABOUT ME
須田整
須田整
三井不動産グループのPM会社にて、オフィスビル、ホテル、リテールなどあらゆるアセットタイプのPM業務、売買仲介業務、賃貸仲介業務、管理受託営業業務を経験し、物件受託から運営・管理、不動産売買取引まで一連の業務の全てのフローを体得。 それ以前は、株式会社ナカノフドー建設にて、契約、物件引渡、建設業経理、建築受注営業業務等を担い、建築分野の経験・知識・知見を得る。 一部上場不動産会社にて不動産再生事業に携わった後、2016年11月AAAコンサルティング株式会社入社。新規事業開発を中心に、売買仲介、英語力を活かし海外投資家向け営業業務等も担当。建設・不動産業務の幅広い実務を経験。 2018年8月より高砂熱学工業株式会社入社、不動産事業開発部に所属し、事業用賃貸不動産、再生事業向け不動産の取得、大規模開発事業への出資及びプロジェクト参画、そして高砂熱学グループでのPM事業拡充を担う。