不動産活用ネットワークは、不動産オーナー様が直面している課題に対して最短最適な解決策を提供するため、企業の垣根を越えて協力し合うことを目的とした不動産業のプロ集団です。 この『対談』では、毎回テーマを決めて、日々オーナー様から寄せられる「お悩み」や「お困りごと」に対し、【専門家による多角的な視点での解決策】をお伝えしていきます。
令和4年(2022年)に、大幅に火災保険契約の改定が実施されました。「契約年数が短くなった」など、実際にこの制度改定による影響をご体感された方も多いと思います。今回は、賃貸不動産オーナー専門の保険のプロとして様々な事案に触れ、諸問題を解決に導いている保険ヴィレッジの斎藤慎治と、日々管理会社の立場で不動産オーナーから保険の契約や利用方法などに関する課題に向きあっている株式会社ハウスメイトマネジメントの伊部尚子が、この制度改定にどう対処すべきかなど、具体的な対応方法などについて対談しました。
▼保険金が後払い!? 火災保険の大幅改定の内容
-意外に大きいルール改定の影響
▼保険証券を確認する際のチェックポイント!?
-保険始期が2022年の10月1日以前か以後か
-気候変動による新たな水災リスク
保険金が後払い!? 火災保険の大幅改定の内容
伊部
今日は、よろしくお願いします。
斎藤
こちらこそよろしくお願いします。
伊部
早速ですが火災保険のルールが変わって、まえは損害箇所を修理する前にお金が出ていたのが、工事が完了しないと費用が貰えなくなってしまったんですよね。
斎藤
以前は、損害の確認(写真など)と修繕見積書があれば保険金がおりていましたが、2022年10月1日以降の契約については実際に復旧しないと保険金の支払いがされないようになりました。
伊部
それ以前の保険はこれまで通りでも、これからの契約や満期更新後から適用される?
斎藤
はい。以前の契約そのままですが新たな契約になると、これまで修理以外でも使えていた保険金が自由に使えないようになってしまったということです。
伊部
なぜ、使い道が問われるようになってしまったんですか?
斎藤
修繕せずに放置されるケース、悪徳業者による修繕費の水増し請求などが横行したことも理由のひとつだと思います。
伊部
タイミングによっては保険金の受け取りよりも修繕費用の支払いが先になり、オーナー様は一旦費用を立て替える必要が出てきてしまいます。
斎藤
それもそうなのですが、ほかにも課題があります。
伊部
そうなんですか!?
斎藤
これまでは損害を確認のうえ見積をしてもらい、承認されれば保険金が先におりていたので工事発注への流れもスムーズでした。でも、先払いしてくれないと工事しないとなったらオーナーは保険金がおりるまで立替えをしなくてはいけなくなる。
伊部
当社の場合は、いったん工事費用を立替えておいて、翌月以降の家賃と相殺する方法をとっていますので、オーナーとしてはあまり変化を感じることはないかもしれません。
斎藤
管理会社が立替えてくれる場合は、そんなに影響がないかもしれません。あと2~3年以内に修復工事しますというような「確約書」を提出すれば、先に保険金を受け取ることも可能なケースもあるので、現金を用意しなくても済む場合もあります。もちろん、当然工事をしなければ保険会社から返金請求をされることになりますが……。
いずれにせよ後払い化の影響は想像以上に大きいといえます。管理会社にとっては資金回収まで時間がかかるようになるかもしれませんよ。
伊部
確かに、保険金がおりるまで家賃相殺を待って欲しいというご要望があるとそうなりますね。そこまで気づいていませんでした。
斎藤
いま、日本全国を回りながらこのあたりの情報をお伝えしています。オーナーをお守りするためにも不動産管理会社の方々は、火災保険の内容を把握しておく必要があります。
伊部
保険金が出ると思っていたら出なかったでは目も当てられません。
斎藤
保険始期(ほけんしき)が、2022年10月1日以降かどうかが重要なポイントです。
あと、この改定によって最長契約期間が10年から5年に短縮されました。これは長期契約による割引率が下がり保険料は上がることになるので、賃貸経営へも影響が及ぶことになります。
伊部
保険期間の短縮の影響だけではなく、保険料自体が上がっているように感じていますが。
斎藤
価格的には上昇方向であることは間違いありません。ただ、保険でカバーできる内容が広がっている場合もあるので一概にはいえません。やはり保険証券を確認することが重要です。
保険証券を確認する際のチェックポイント!?
伊部
当社のような不動産管理会社、ご自身で管理されているオーナーとしては保険証券のどこの部分に注意して見ればよいでしょうか?
斎藤
まずは、保険始期です。
伊部
先程の保険の開始日が2022年の10月1日以前か以後かですね。
斎藤
そうです。それによって保険の内容がガラッと変わっています。
そして、気をつけなければいけないのが補償内容。昨今、気候変動による水害のニュースが目につくと思います。
伊部
ゲリラ豪雨という言葉は耳慣れてしまいましたが、観測史上最大雨量のような見出しも最近よく目にする気がします。
斎藤
物件の近くに河川がある方は、保険契約の際に気をつけているかもしれません。けれども、問題になっているのは「内水氾濫(ないすいはんらん)」です。これは下水道などの排水施設の能力を超える大量の雨が降った際、雨水の排水先であるの河川の水位が高くなってしまった時に逆流をおこして浸水が起こる現象です。実際、東京23区内で河川のないところでも下水道や水路などからあふれだした雨水の氾濫がおきて浸水被害が発生しています。
伊部
マンホールから水が溢れ出しているニュース映像がよく流れていますが、近くに川がないからと安心してはいけない。
斎藤
最悪、トイレの排水が逆流することさえあり得ます。
伊部
ハザードマップは、よく確認していますがそれだけで安心してはダメだということですね。
斎藤
洪水にくわえて内水ハザードマップも作成されていますが、あくまでも過去のデータから作成しているという点は忘れてはいけません。要するに危険地域に指定されていないから絶対に大丈夫だと思わないほうがよいということです。
伊部
よくニュース番組のインタビューで、ご高齢の方が「何十年も住んでいるけど、こんなの初めて…」とお答えになっていらっしゃいますが、100年に一度レベルのようなお話しだとデータも経験も役に立たない。
斎藤
はい。
これから下水の処理限界を超えるあり得ない量の雨が降る可能性は高まっていくと思っています。そして、ほとんどの保険において水災は特約扱いになっているということも是非お伝えしておきたいポイントです。
伊部
水災はオプション契約。水害も補償されると思ったら保険金が出ない可能性があるということですね。気候変動による内水氾濫のリスクについて、社内で共有してオーナーにもしっかりお伝えしていきます。ちなみに水害への対策を検討する際の注意点はありますか?
斎藤
水災補償が付帯されていても、縮小担保型といわれる損害額の一部(10~70%)しか補償されないタイプもあるのです。
伊部
先日、30%しか保険がおりなかったという話をききましたが、縮小担保型だったということですね。100%補償のプランもあるのでしょうか?
斎藤
もちろん100%補償するタイプもあります。
あと、比較的新しい保険ですが「特定設備水災補償特約」の検討をお勧めします。これは、水災の認定基準(床上浸水または地盤面から45cm以上)に達しない台風や豪雨などによる洪水によって冷暖房の室外機や給湯設備などの付属機械設備に発生した損害を補償してくれる特約です。
伊部
通常の水災補償では補償されない?
斎藤
水災補償を付加していても、いわゆる床下浸水、地面から45cm以下だった場合は補償対象になりません。
伊部
水位が45cmを超えないと保険が使えないんですね!?
設置場所を考えるとエアコンの室外機は床下浸水でも水没する可能性がとても高い。
斎藤
半地下にある機械設備、エレベータや発電設備なども被害を受けやすいので注意が必要です。
伊部
地上に室外機がずらっと並んでいる物件がいくつも思い浮かびます。オーナーの皆様にお話しつつ保険証券を確認させていただこうと思います。
斎藤
喜ばれると思いますが、今の保険に中途付帯できないこともあわせてお伝えください。
伊部
いまの保険に追加できないとなると今の保険を一旦解約して新規契約をする必要がある。ということは満期前の保険を解約しなければなりませんね。
斎藤
そうなりますね。恐らく加入中の保険のほうが割安なはずなので、そこは悩みどころです。また、一般的には水災特約は付け外し可能ですが、プランによってはそれが出来ない場合もあるので、詳しくは損害保険会社の担当者に確認が必要です。
伊部
実際に斎藤さんが実務をされるなかで、満期まで時間がある方にはどのようにアドバイスをされていますか?
斎藤
内容によりますが、基本的には満期までそのまま。あとは災害に備えてちゃんとお金を残しておいていただくようにというお話しをしています。一旦解約して新規契約をすると保険料があがってしまうなら、その分を貯金しておいてもらうイメージです。幸い被害にあわなければ現金が手元に残ることになります。
伊部
それが正解ですね! よいことを聞きました(笑)
斎藤
(笑)
保険ヴィレッジ 斎藤慎治
株式会社ハウスメイトマネジメント 伊部尚子
~ 後編に続く ~
※前後編の2回にわけてお届けしています。後編は、
【不動産オーナーにプロが勧める火災保険とは?】をお送りします。