対談インタビュー

賃貸物件における第一印象がその後の全てを左右する

不動産活用ネットワークは、不動産オーナー様が直面している課題に対して最短最適な解決策を提供するため、企業の垣根を越えて協力し合うことを目的とした不動産業のプロ集団です。 この『対談』では、毎回テーマを決めて、日々オーナー様から寄せられる「お悩み」や「お困りごと」に対し、【専門家による多角的な視点での解決策】をお伝えしていきます。

新規入居者募集には「大規模修繕」は無力なのか!?

インターネット、さらにスマートフォンの登場で大きく変化してきた世の中の流れは、不動産業界、そして証券業界にも押し寄せてきています。今回は、看板業界での実績を活かしてアパート・マンションの第一印象を劇的に変えることに成功した株式会社サインズスクエアの西村友宏と、日々、管理会社の立場で不動産オーナーの課題に向きあっている株式会社ハウスメイトマネジメントの伊部尚子が、入居者募集にあたっての修繕やリフォームにまつわる課題やその具体的活用方法などについて対談しました。

伊部
今日は、よろしくお願いします。もう7年くらい前だと思うんですが、「スゴイ、面白い人がいるから、紹介したい…」と、不動産活用ネットワーク仲間であるハッチ・ワークの大竹会長にいわれて、確か池袋のカフェに向かいました。

西村
覚えています、確かに池袋でしたね。
私が地元大阪から東京に進出。マンションなどのエントランスなどを中心に外観リフォームの事業をしていた時期でした。当時、サラリーマン大家さんが流行っていて、毎月案件がきてはいたんですが、「とても良いサービスだけど、良い提携先があるはず……」といわれてお会いしたのが伊部さんでした。

伊部
あの時のお話しの衝撃は、今でも忘れられません。っというのは、不動産管理会社ってできる限り新築の状態を保つというのが基本的な考え方。建物が古くなり、だんだん汚くなってきたら10~15年で大規模修繕して、タイルを貼り替えたり、吹付をしなおしたりして外装をキレイにする。内装は、入居者が変わるたびに見直しをするとしても、あとできるのは掃除くらいというのが常識。

そこに、大げさにいうとエントランスをキレイにするだけで入居が決まっていくという実際の事例をみせてもらって目から鱗でした。

西村
確かに最初に手掛けた物件も、内装はリフォーム済でとてもキレイになっていました。でも、何年も入居者がなかなか決まっていない状態でした。

伊部
その物件も、やはりエントランスに問題が?

西村
はい、入口にアーチがあったんですがそれがあまり目立たず、その先にある階段のサビが気になってしまいました。

伊部
今なら、私も気づけるかもしれませんが、どうしても管理会社もオーナーも内装や設備、家賃などの条件に目がいってしまいます。西村さんは、どうしてそれに気づけたんでしょうか?

西村
もともと、本業が不動産ではなく看板屋だったからではないでしょうか。看板には、必ず目的があります。発注者である店舗を知ってもらって、人に来てもらってなんぼ…というとてもシビア世界です。予算が限られるなかで、いかにサービスを知ってもらい、実際に足を運んでもらえるかが勝負。

伊部
マンションやアパートは、賃貸経営にとってのお店と考えれば同じこと。

西村
そうです。どんな商売でも、サービスの内容が分かりづらかったり、目立たなかったりという、何かしらの問題があるからお客さんが来ない。その問題を解決するのが看板の役割だという視点が常にありました。

伊部
そもそも、店舗の世界からマンションなどの不動産へと進出されたんでしたっけ?

西村
もともとは、看板の仕事を発注してくれていた不動産会社の社長から、自社で保有しているマンションの入居がなかなか決まらなくて困っているんだけど、西村さんのノウハウでなんとかならないかと相談を受けたのがきっかけでした。当時、看板による店舗集客では、実績を上げていたので、それを活かせないかと考えてくれたようです。

伊部
それが、アーチの物件?

西村
そうです。さっきもいいましたが、本当に部屋はキレイでした。でも、パッと見たときの印象があまりよくなかったんです。そこで、まずアーチを塗りなおし、あわせてデザイン性を持たせるように変えたら、ガラッと雰囲気がよくなりました。

伊部
それで、入居者が増えた?

西村
はい。実はキレイに塗装作業が終わって、まだ「ペンキ塗り立て注意」の貼り紙が残っている最中に『ここ空いてますか?』という問合せがきてスグに入居者が決まりました(笑)

伊部
いきなり効果がでた(笑)

西村
私も当然嬉しかったですし、自信にもなりました。不動産会社の社長も効果を確信してくれて、他にも所有する物件を全て任せてくれました。

伊部
それが「第一印象リフォーム」の始まりだったんですね。
確かに、考えてみれば、幹線道路添いのマンションでもない限り、道の反対側から建物全体を見渡すことはできませんし、わざわざ見たりもしません。そもそも多くの物件は、住宅街ですから、せいぜいちょっと離れて見上げるくらいしかできない。大事なのは、一番目につくエントランス、そこに立ったときの第一印象ですよね。

西村
そうです。パッと見の印象で全てが決まります。特に、男性は立地や設備などのスペックで考えがちですが、女性は「いいのは、わかるんだけどなんかイヤ…」というようなことがあります。実際、自分の引越しの際、妻と似たようなヤリトリをした記憶があります(笑)

伊部
もはや、言葉ではない世界(笑)

西村
(笑)

伊部
実は、正直にいうと。色々と事例写真を見せてもらった時に、よく見るとここはキレイにしないんだと思った部分がありました。

西村
よく見ると気になるということは、よく見ないと気になりません。入居者される一般の方は、恐らく気づかないか、気づいても気にならないところ。

伊部
確かに!ひとことでプロといってしまえば、それまでですが、その視線や気持ち、導線を含めた心理的な面を見極められているところがすごい。それを考慮してピンポイントで企画施工している。

西村
お陰様で、順調に入居者が増えていきましたが、当然ながら上手くいかないこともありました。そんな失敗事例もオーナーに報告して改善してきたから、今ではポイントがさらに絞れるようになりました。あと、予算がふんだんとはいえない看板の世界で揉まれてきたこと。最小限の手間で、最大限の効果を求め続けられてきたのが、逆によかったのかもしれませんね(笑)

新規入居の増進だけではない第一印象リフォームの隠された効果

伊部
第一印象リフォームをすると新規の入居が増えるだけではなく退去が起きない。更新率もあがったというお話しも印象深く覚えています。

西村
物件を探している人にとって気持ちよく感じる空間は、当然ながら前から住んでいる人にとっても心地よいはずです。それまで、顕在化していなかったとしても、潜在的には暗さによる恐怖感、汚れ老朽化から不快な思いをしていたことは確かで、それがキレイになれば満足度があがって住み続けてもいいかなという気持ちにもなるのではないでしょうか。

伊部
考えみれば、ビフォーとアフターを知っているのは、昔からの入居者だけ。新規の方にわざわざビフォーは見せないから知る由もない(笑)

西村
変化を一番感じて、喜んでくれている(笑)

伊部
(笑)
先程、看板業は、予算が限られているというお話しがありましたが、我々管理会社もオーナーも同じです。この前はキッチンを入れ替えたから、今回はお風呂のリフォームを優先したり、壁紙は貼り替えるけど床はそのままで我慢したりとやりくりしているのが実態です。

しかも、壁紙が新しくなると、経年劣化で黄ばんだスイッチカバーが気になるというイタチごっこになってしまいきりがない。そう考えると、ひとつのひとつの部屋に予算を割くよりも、皆さんが毎日通って目にするエントランスにお金をかけたほうがよい気がしてきます。

これから、人口が減っていくわけですから、ますます入居者募集は厳しくなります。最近は、業界的に「テナントリテンション」に注目が集まっていて、社内でもこの考えを大切にしてくという流れになっていますが、西村さんの考えはまさにこれにマッチすると思います。

【テナントリテンション:Tenant Retention】
テナント=Tenant=借主(入居者)をリテンション=retention=保持するという意味の不動産用語。賃貸住宅において、入居者に長期にわたって住み続けてもらうことを目標として、施策を実行していくという意味合いで使われています。入居期間が長くなれば、空室の損失や募集にかかる手間や費用も必要なくなり、効率的な賃貸経営ができるようになります。

西村
内装が汚かったり、設備があまりにも古すぎたりするのは論外ですが、手前味噌ながら、エントランスを含む共用部に予算を割くことは、退去リスクを減らすという意味で有効かつ対費用効果という面でもかなりよい投資だと思っています。

<マンションのエントランス「第一印象リフォーム」事例>

伊部
しかも、建築資材や人件費の高騰で、大規模修繕がさらに難しくなっています。

西村
確かに、看板業界にもその波は来ていますが、大規模修繕に比べれば、使う材料も少ないですし工期も短い。影響がないといえばウソになりますが、まだまだ工夫の余地があると考えています。
リフォームから話がとびますが、かなり昔の引き合いを頂戴したとき、そもそも外観云々の話ではなくて、入口にゴミが散乱していたような物件もありました。恐らくそれが入居の進まない原因だったと思います。

伊部
それは、物件から離れたところにオーナーが住んでいる場合におこりがちな、不動産業界のあるある問題ですね(苦笑)

西村
あっ、ハウスメイトさんが管理されている物件は何ヵ所も見せてもらいましたけど、どこもキレイでしたよ!(笑)

伊部
ありがとうございます!
新規入居ごとの内装、10~15年の大規模修繕、に加えて「日々の掃除」が基本ですから(笑)

西村
(笑)

伊部
ほかにも臭いや騒音が入居の進まない原因だったなんて話もありますので、外観のリフォームを含めて、工夫という範疇では解決できない可能性も多々あります。

西村
お陰様で、最近は当社のサイトをみて、地方から引き合いを頂戴することも増えてきました。基本は、各地方の協力先に現地に出向いてもらうようにしていますが、オンラインだけでは、音はまだしも臭いはわからない(笑)

伊部
コロナ以降、不動産業界でもオンライン内見が当り前になってきて、良い傾向ではあるんですが、実際に見ていれば起こらなかったと思われる問題やクレームが、実際に住み始めてから発生しています。

そういえば、冒頭お話のあった「とても良いサービスだけど、良い提携先があるはず……」という答えがわかりました。不動産オーナーを探すよりも、我々のような管理会社をターゲットにしたほうがよいということをハッチ・ワークの大竹会長はおっしゃりたかった。

西村
そうです。 当初、元々看板の仕事をしていた不動産会社が所有する物件の仕事をしていたこともあって、その後も、どうやって不動産オーナーと知り合えばよいのかばかり考えていました。

伊部
確かに、オーナーさんご自身が管理をされていることもありますがそれは少数派。オーナーとの信頼関係が既にある我々のような管理会社に営業したほうがいいですね。

株式会社サインズスクエア 西村友宏
株式会社ハウスメイトマネジメント 伊部尚子

~ 後編に続く ~

※前後編の2回にわけてお届けしています。後編は、
【人口減少の時代に求められる賃貸物件の修繕と美観】をお送りします。