加盟社リレー寄稿Q&A

最近よく聞く「セットアップオフィス」は得ですか?損ですか?

不動産活用ネットワークは、不動産オーナーのお困りごとに対して最短最適な解決策を提供するために、企業の垣根を越えて協力し合うことを目的とした不動産業のプロ集団です。Q&Aコーナーではオーナー様からのお悩みと専門家による解決方法をご説明いたします。

今回のご相談

不動産オーナー
不動産オーナー
セットアップオフィス」は貸す方は内装工事に初期費用がかかるため抵抗感があるでしょうし、借りる方は賃料が通常のオフィスと比べて高いので割高に感じて入居検討が難しくなると思うのですが、最近募集事例が増えています。それはなぜでしょうか?
須田整
須田整
貸す側としては、内装工事の初期負担コストに対し、設定する貸付賃料水準により初期負担コストを何年で回収しようとするかの資金計画が判断基準となります。一方、借りる側としてはオフィスの想定使用期間に対して一見割高な賃料水準を内装・什器備品を自社で用意した場合の移転コストと、退去原状回復工事に至るまでのトータルコストとを比較し、割高に支払っていた賃料が何年でペイし、コストメリットが生まれるまでどれぐらいの期間がかかるかということが判断基準となります。これらが上手に折り合えば、双方にメリットが生まれるオフィス賃借の方法になります。

出店・退店の柔軟性が今後のオフィス戦略に重要

都心のオフィス市場の中でコロナ渦の状況となり、まず最初に動きが出たのは渋谷に集積するIT企業など情報・通信産業のオフィス撤退です。彼らは既に在宅ができるような勤務・業務の体制が整備されていたため、テレワークなどのリモートワークを推進しやすい体制にあり、容易にオフィスの撤退が可能だったのです。今後はサービスオフィス、コワーキングスペースなど出店・撤退が短時間で柔軟に実行できる形態のオフィス需要がより高まりを見せるでしょう。

伝統的な賃借形態が幅を効かせ、オフィス市場の多様化を阻害?

一般的な事務所では、契約を解約する際に3ヶ月~6ヶ月前に解約予告の意思表示を書面で提出し、解約日を迎えるまでに原状回復工事を行い、明渡しを済ませて退去するという流れとなり、解約の意思を決めてから、次のオフィスに移ることができるまでに相当の時間がかかり、当然借主は解約日までの賃料は支払わなくてはいけません。一方で貸主側は解約予告の意思表示から解約日までの間に次の借主を見つける努力をするのですが、こうした(貸主側から見て)期間の猶予を含んだルールが、借主側の柔軟なオフィスの入退去を、ある意味で妨げる要因になっていました。一昔前まではオフィスはこのような貸し方が大半で一部短期賃借、退去が可能なサービスオフィスなどは、個人事務所などのごく小規模のレベルに限られたものしか市場には存在しませんでした。

コロナ渦のオフィス市場の変動を機にオフィスの多様化に拍車

新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、オフィスの在り方が大きく見直される転機となりました。郊外や地方に拠点を移して業務を継続する人、リモートワークの比率を上げてその分借りていたオフィスの面積を半減させる企業、中核となるオフィスのほかにサテライトオフィスとして従業員の居住エリアから比較的近いエリアに拠点を分散させる企業など、さまざまなオフィスの拠点戦略の事例が見られるようになり、オフィスサービスを提供する不動産オーナーの方も多種多様なサービスを提供するようになりました。特に短時間でオフィスの借り増し、撤退が容易な形態を含むオフィスサービスの事例が多く見られるようになりました。

セットアップオフィスを活用し、効率的な経営戦略を!

借主からすると一見賃料が割高、経費負担が重い印象のあるセットアップオフィスですが、内装や什器備品が仕上がっている分、コストは当然軽減され、中には退去時の原状回復費用まで免除する募集物件もあります。借主自ら想定する賃借期間の中で、賃料の割高分と、負担が軽減される内装工事費用、什器・備品の負担費用あるいは原状回復工事費用を相殺し、一定のコストメリットがあると判断できた場合、自社に合ったレイアウトや移転にかかる時間的メリットなども考慮し、セットアップオフィスを経営判断として選択する借主も今後多くなるでしょう。一方貸主側は、内装費や什器・備品の設置費用など初期コストが嵩むため、実施をためらう貸主の方も多いと思います。この点については借主側のコスト検証の裏返しで、かかる内装費などの初期費用をどれだけ賃料に転嫁し、何年で回収するかといった見方で事業の成否を判断したりします。一般的な回収期間の目安として10年~15年と言われるオフィス内装の償却期間よりどれだけ短い期間で回収できるか、また、保有ビルのテナント平均賃借期間を割り出し、その期間内で初期コストが回収できるような賃料設定を行う貸主もいます。

転換期のオフィス業界、新しい貸し方、借り方に注目して下さい。

現在、コロナ禍を契機としてオフィス様式の大きな転換期に差し掛かっています。旧態依然の単なる「空間貸し」のオフィスだけではなく、いつどこで、どのように、どれだけの期間オフィスを使うのか、そのニーズは細かく多様化しており、貸す側もその多様化したオフィスニーズに答えるべく、様々な形態のオフィスサービスが展開されてきています。コラムを読んでくださっている皆様も、このオフィスの重要な転換期に様々なオフィスビルサービスを見聞きし、アンテナを張り、続々と生まれる新たなオフィスに注目してください。

 

 

ABOUT ME
須田整
須田整
三井不動産グループのPM会社にて、オフィスビル、ホテル、リテールなどあらゆるアセットタイプのPM業務、売買仲介業務、賃貸仲介業務、管理受託営業業務を経験し、物件受託から運営・管理、不動産売買取引まで一連の業務の全てのフローを体得。 それ以前は、株式会社ナカノフドー建設にて、契約、物件引渡、建設業経理、建築受注営業業務等を担い、建築分野の経験・知識・知見を得る。 一部上場不動産会社にて不動産再生事業に携わった後、2016年11月AAAコンサルティング株式会社入社。新規事業開発を中心に、売買仲介、英語力を活かし海外投資家向け営業業務等も担当。建設・不動産業務の幅広い実務を経験。 2018年8月より高砂熱学工業株式会社入社、不動産事業開発部に所属し、事業用賃貸不動産、再生事業向け不動産の取得、大規模開発事業への出資及びプロジェクト参画、そして高砂熱学グループでのPM事業拡充を担う。