加盟社リレー寄稿Q&A

不動産への環境配慮でコストを気にせず、実現できることはありますか?

不動産活用ネットワークは、不動産オーナーのお困りごとに対して最短最適な解決策を提供するために、企業の垣根を越えて協力し合うことを目的とした不動産業のプロ集団です 。 Q&Aコーナーではオーナー様からのお悩みと専門家による解決方法をご説明いたします。

今回のご相談

不動産オーナー
不動産オーナー
最近、新聞や報道などでもSDGsやESG投資、CO2排出削減など環境配慮に関する内容を多く目にするようになりました。不動産や建物に対する環境配慮でイメージできるものは太陽光発電、断熱工法への工夫や車庫に設置する電気自動車の蓄電設備(V2H)など、お金のかかりそうなイメージのものばかりなのですが、不動産オーナーが身近にできる環境配慮策はないのでしょうか。
須田整
須田整
環境に配慮するということは、ひとえにお金をかけて省エネ設備を設置することだけではないということをまず意識しましょう。環境配慮は資源や材料を長く大事に使うことであったり、地域との関わりや文化を大切にしながらコミュニティへの配慮、関わりを考えること、光・熱・空気・水を効率的に利用することも立派な環境配慮と言えますし、環境に関わる補助金の種類についても個人レベルで取得できるものが増えています。さまざまな分野の環境配慮策を参考にしながら、身近にできる環境配慮策もいろいろとありますので、一緒に考えてみましょう。

産業・物流分野などで進む環境配慮策、個々人の分野ではどうか

日本は、戦後高度成長期の発展過程において公害問題や公害病などが顕在化、大気汚染防止のための住民運動などを契機に、国、地方公共団体での制度・規制改革が進み、最終的には各企業単位によるさまざまな公害防止技術・ノウハウの開発、公害対策の基盤構築がなされ、戦後の環境問題を克服した経緯があります。その当時、特にクローズアップされたのが大気汚染による健康被害であり、CO2などの汚染物質排出に直接的に関連する自動車産業、物流産業などは早くから問題の対処に取りかかった結果、現在に至るまでに多くの環境配慮技術を蓄積し、実践しています。特に物流産業では、環境負荷の低い輸送手段へ転換するモーダルシフトや、梱包材、書類のリサイクル化、低公害車の導入など次々と環境配慮策を実践し、物流需要の増加による環境負荷問題の解決にも挑戦しています。一方で個々人のレベルでは、世界中でさまざまな環境配慮活動が展開されておりますが、個人の環境負荷に規制や罰則がほとんどなく、また個人レベルでの環境配慮の効果を図る指標も乏しいという背景もあってか、環境配慮の意識・実践の両面において、まだまだ理解が進んでいない部分が多い現状です。

新規のテナント契約ができない?!世界の不動産における環境配慮

不動産における環境問題に話を移すと、世界的にもオフィスビルを中心とした用途で環境配慮型不動産についての意識が高まっています。環境配慮型不動産に関する世界各国の規制はさまざまありますが、英国では省エネ基準を満たしていないオフィスビルなどについて、新たな賃貸借契約の締結が禁止される等の厳しい規制を課す地域も出てきています。更には、建物全体のエネルギー性能と総合的な環境性能を指標、評価として算定する環境認証が国ごとに策定されており、個別の不動産の環境性能を評価する指標として活用されています。環境認証についてはそれぞれ重要視する評価ポイントに違いがあり、エネルギー性能の評価に特化する米国のENERGY STARや豪州のGreenStar、総合的な環境性能を評価する英国のBREEAM、日本のCASBEEなどの指標も登場しています。

ESG投資が後押し、環境配慮とコストメリットの同時実現

前述のオフィスビルを中心とした環境配慮型不動産の意識向上の背景には、世界的なESG投資の増加という要因があります。世界的なESG投資金額は2018年度だけで約3,200兆円にのぼっており、世界各国の投資家・資産運用会社が投資対象におけるESGの要素を重要視している事がわかります。一方で建物を使う利用者側に目を向けると、欧米ではビルオーナーに対して環境認証等の取得を入居条件にしたり、同一条件の企業からの入社オファーをもらった場合、80%の近くの人が環境認証を取得しているビルに入居している企業の方を選ぶとの調査結果もあります。また、数値的な環境性能だけでなく、企業で働く従業員が身体的・精神的にも健康な状態に保ち、従業員のエンゲージメント(会社への愛着心や思い入れ)を高めることが企業イメージ、評価の向上にもつながるという点から、従業員の生産性・効率性が上がれば、その分人件費が減少し、建物のグレードが高く賃料も比較的高いと言われる環境配慮型不動産も中長期的な視点からはコスト採算が取れるとの試算も出ており、まさに「環境が利益に結び付かない時代」からの脱却、転換点が見えてきています。

環境配慮は私達の使命、身近に出来る取組みからはじめましょう

地球温暖化、資源の枯渇、まちなみ・コミュニティの消失などの環境問題は私たちの暮らしと密接に関わっています。これまで、不動産の環境配慮が経済や世間の必要性とどう結び付くかという着眼で述べましたが、本来の環境配慮とは、需要の有無、実行して儲かるか損するかという観点ではなく、本質的に私たち課せられた使命であるとの認識が重要です。建物の設計手法で「パッシブデザイン」という言葉があります。これは省エネ設備を導入して省エネを実現することとは違い、自然環境の特性を活かし室内を快適にする、すなわち建物の周りの自然環境に合わせた住まいの在り方、地域特性に合った暮らし方を追求していく考え方のことです。身近な環境配慮、パッシブデザインの例を少し挙げてみます。日本の場合、夏の太陽は高く冬は低いという特性があるため、南に面した建物の庇や軒を適切な出幅に調整しておくことで、夏の強い日差しを遮り、冬には日差しを効率的に取り込み、室内の温度環境、エネルギー効率を高めることにつなげることができます。また、建物最上階の上部に「高窓」を設置することで建物の蓄積熱を効率よく排出する仕組み作りなど、身近にできる環境配慮の取組みはたくさんあります。

これからは不動産の環境配慮が個人レベルで求められる時代です

先程の環境認証の話の中で、日本のCASBEEという制度を紹介しましたが、こちらは大型のオフィスビルから分譲マンションや(中古も含む)戸建てなど、さまざまな規模・用途別に評価カテゴリーが分かれています。評価ランクが高いほど「環境性能に優れた建物」「長く快適に住み続けられる建物」という評価になるのですが、評価ポイントの中には、庭に木を植え、池を作るなど、身近で元手があまりなくともできる環境配慮策で周辺環境や生態系の維持などの観点で評価ポイントを上げることも可能で、このような環境認証を取得することで不動産の価値向上及び不動産を取引する際の信頼性向上にもつながる手段として活用されはじめています。このコラムをご覧の不動産オーナー様も環境配慮と不動産を結び付け、環境認証などに興味をお持ちでしたら、フドカツ宛てにご相談ください。

 

 

ABOUT ME
須田整
須田整
三井不動産グループのPM会社にて、オフィスビル、ホテル、リテールなどあらゆるアセットタイプのPM業務、売買仲介業務、賃貸仲介業務、管理受託営業業務を経験し、物件受託から運営・管理、不動産売買取引まで一連の業務の全てのフローを体得。 それ以前は、株式会社ナカノフドー建設にて、契約、物件引渡、建設業経理、建築受注営業業務等を担い、建築分野の経験・知識・知見を得る。 一部上場不動産会社にて不動産再生事業に携わった後、2016年11月AAAコンサルティング株式会社入社。新規事業開発を中心に、売買仲介、英語力を活かし海外投資家向け営業業務等も担当。建設・不動産業務の幅広い実務を経験。 2018年8月より高砂熱学工業株式会社入社、不動産事業開発部に所属し、事業用賃貸不動産、再生事業向け不動産の取得、大規模開発事業への出資及びプロジェクト参画、そして高砂熱学グループでのPM事業拡充を担う。