不動産活用ネットワークは、不動産オーナーのお困りごとに対して最短最適な解決策を提供するために、企業の垣根を越えて協力し合うことを目的とした不動産業のプロ集団です 。 Q&Aコーナーではオーナー様からのお悩みと専門家による解決方法をご説明いたします。
今回のご相談
賃料を増額するための条件とは
貸主が入居者・テナントに賃料増額の意向を伝えるにあたり、借地借家法第32条1項に記載されている次の三つの条件のいずれかを満たすことが必要であると言われております。
条件①租税の増加などにより、土地・建物の価格が上昇
条件②物価をはじめとした経済事情の変動
条件③近傍類似物件、同物件の別の部屋(ただし、広さ・間取りなどの条件も同等水準とする)に比べて対象物件の賃料が割安
賃料増額にあたり、これらの条件を満たす状態にあるか、まずは確認します。
賃料交渉のタイミングと管理会社への依頼内容
まず賃料交渉のタイミングは、住宅で貸している場合と事務所などの事業用で貸している場合とで異なります。住宅で貸している場合は、一般的に2年ごとに契約を更新する普通賃貸借の形態が多いため、契約更新のタイミングで賃料交渉を行う場合が多いです。
次に、管理会社への依頼すべき資料の内容です。
【用意しておく資料の例】
1.条件①の関連資料⇒路線価、固定資産税路線価表、固定資産税評価証明(オーナーより管理会社に開示)など
2. 条件②の関連資料⇒消費者物価指数、労働賃金指数、景気動向指数などの経済指標や多くの調査会社が公表している「坪当たりの賃貸アパート・マンションの賃料の推移」などのデータ
3.条件③の関連資料⇒近傍同種の物件(間取り、築年数など)の家賃を調査。
(借主側でもインターネット等で調査可能なため、抽出物件の偏りなどに注意)
注:資料を入居者・テナント側へ提示する際の注意事項として、基本的には公知の情報で偏りがない資料を準備し、管理会社が公平公正なスタンスで交渉できるような態勢を整えます。
いざ!交渉開始!!でもどこかで”線引き”を
必ずしも賃料増額の交渉がうまくまとまるとは限りません。
さらに、管理会社が、貸主に代わり賃料交渉の窓口になる事はできても、交渉を強引にまとめようとして法的な根拠や判例などを用いて交渉を進める事は、いわゆる「非弁行為」に該当し、交渉当事者が弁護士など法律の専門家でない限り、違法行為となるので、充分注意しましょう。
管理会社とは借主への賃料増額の申し入れにあたり増額を満たす要件、根拠資料を事前にしっかり整備した上で、増額する賃料の上限、妥協する場合の水準、交渉が不調に終わった場合の対応など、事前に方針をよく決めておきましょう。
本当に交渉が難航した場合は.....。
賃料の改定について合意をみない場合でも更に賃料の交渉を継続しようとする場合、借主に対し、内容証明郵便などで賃料増減改定の意思表示を行い、「賃料増減請求権 」を行使します。
それでも借主が応じない場合は、法的な手続を取る事になり、交渉窓口を管理会社から弁護士へ変更し、相談しながら慎重に対応を進めましょう。賃料増額に関しての法的な手段としては、民事調停と訴訟の2つがあります。いきなり訴訟を提起することはできず、まず民事調停を申し立てる事になります。(調停前置主義)。
民事調停とはいわば「裁判所の職員(調停委員)が間に入って行う当事者同士の話し合い」です。経験豊かな調停委員が交渉の間に入ることで、当事者間ではまとまらなかった話し合いがうまくまとまることも少なくありません。
さらに調停で解決できない場合は、いよいよ訴訟を提起することになります。不動産鑑定士の鑑定結果などを基に、裁判所が最終的に適切な賃料を決定します。ただし、訴訟提起の前に、弁護士費用、鑑定料などのかかる費用を想定し、訴訟をしても採算がとれるかどうかを十分に検討する必要があります。
交渉の”その先”も良く考えましょう。
賃料の交渉は、貸主・借主双方にメリットを生むことはありません。交渉が難航すれば、貸主・借主の関係の悪化ばかりか、建物の管理運営に支障をきたすことも考えられます。
大家さんと入居者さんの関係が永く続いていくと捉えるならば、賃料交渉には無理のない根拠と十分な客観性をもった交渉材料の準備を入念に行った上で、最終的に貸主・借主双方が納得する結果を導きたいですね。不動産オーナーの皆さんの賃料交渉のご成功、心よりお祈りしています。