対談インタビュー

環境志向の高まりと高度化するオフィスビル経営

不動産活用ネットワークは、不動産オーナー様が直面している課題に対して最短最適な解決策を提供するため、企業の垣根を越えて協力し合うことを目的とした不動産業のプロ集団です。 この『対談』では、毎回テーマを決めて、日々オーナー様から寄せられる「お悩み」や「お困りごと」に対し、【専門家による多角的な視点での解決策】をお伝えしていきます。

ビルやマンションオーナーにとって欠かすことのできないメンテナンス業務。今回は、ビルメンの最前線で建物の設備管理と効率的な管理運営を実施するTMES株式会社の黒田康裕と、管理会社の立場で不動産オーナーから不動産の更なる利活用などに関する課題に日々向きあっている株式会社ハウスメイトマネジメントの伊部尚子が対談しました。

内 容

▼オフィスビル選びで高まる環境志向
 -オフィスビルに求められるSDGsなどの好環境性
 -環境対応と実際の使い方という視点

▼高度化するオフィスビルの経営
 -建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律
 -オフィスビルとマンションとで異なる環境意識
-省エネ効果を分かち合う「グリーンリース」という考え方

オフィスビル選びで高まる環境志向

伊部
高砂熱学工業さんから引き継がれるかたちでTMESさんがフドカツに加わっていただいてから、なかなかじっくりとお話しをする機会もなかったので、今日はとても楽しみにしていました。両社はグループ企業として、どのような役割を担っているのでしょうか?

黒田
親会社の高砂熱学工業は建物の空調における設計と施工、TMESは、業界では「保全」などといったりもしますが、建物に設置された設備機器のメンテナンス。所属部門では賃貸物件の管理運営を担当しています。

伊部
当社は、アパートとマンションの管理運営をしていますが、TMESさんはオフィスビルのイメージが強いですね。

黒田
一部マンションもありますが、やはりオフィスビルや生産工場などが中心です。

伊部
マンションとオフィスビルのメンテナンスで違いはありますか?

黒田
マンションに比べるとメンテナンスを必要とする機器や範囲などがオフィスとの違いですが、メンテナンスの内容に大きな違いはありません。

ただ、借りる人がオフィスビルの場合は、企業などの法人になります。最近は特に大企業の場合は、CSR やESG、SDGsなどの観点から環境性を建物に求める事例が増えています。

伊部
賃貸住宅の世界でも環境教育を受けてきた若い世代は、省エネなどを気にする傾向がではじめてますが、まだそこまでの波はきていない感触ですね。

黒田
企業はCO2の排出削減など環境目標を達成しなくてはならなくなっています。ですので、その辺りも考慮して建物全体で「再生可能エネルギー」を使用しているビルが選ばれるようになったりもしています。また、既に入居されているビルでもエネルギーの高騰で、費用削減をオーナーが迫られるということも起こっています。

伊部
TMESさんでは、その辺りのアドバイスもされている?

黒田
はい、水光熱費や設備の稼働データをもとにご提案をしています。大規模なビルですと年間で数千万から億単位で電気代が変わってくる場合があります。

伊部
それは大きいですね。

黒田
実は、空調をはじめとする設備全般は、建物完成後でなければ適正かつ最適に稼働するか分からない部分があります。

伊部
そうなんですか!?

黒田
はい、新築する際は余裕を持った設備機器を選んで設計と施工をしています。

伊部
パワー不足はないけど、なかにはそこまでは不要だったという設備もあるということですね。

黒田
まあ、そんなにオーバースペックの機械が設置されていることはありませんが(笑)

伊部
(笑)
そういった場合は修繕の際に入れ替えるのでしょうか?

黒田
入れ替えることもありますし、入れ替えはせず建物の稼働状況に合わせて設備の運転を調整して、運用コストを下げていく場合もあります。また、よくあるのが設計の意図を理解せず効率よく設備や各部屋が使われていない場合もよく見受けられます。

伊部
確かに、コンセントの位置などは気にしますが、どういう意図で空間設計されたとかまでは考えずオフィス内のレイアウトをしてしまうことが多そうですね。

黒田
日本の慣習上、上司のデスクは窓際に設置されていて窓に背を向けて座っている場合が多いと思われます。

伊部
窓際は夏暑くて冬は寒い!先日、商談で伺った比較的新しいビルでしたが、「背中が暑いんだよ」と相手先の方がおっしゃっていました。

黒田
そうなんです。その上司の方に冷房温度を合わせると、通路側の方が夏でもカーディガンを着て、足元は厚手の靴下でヒザ掛けも必要なんてことが起きてしまいます。

伊部
外回りから戻った営業マンに温度を合わせると、1日中オフィスにいる女性が冷えきっちゃうという話をよく聞きますが、それと同じですね(笑)

黒田
(笑)
空調を設計する際にも色々と考えてはいるようですが、寒暖差のことを考えると本当は窓側を通路にしたほうがよいということが分かっています。

伊部
企業文化というか昔からの習慣みたいなものなので、なかなか難しいですね。

黒田
でも、それもあってか、少しでも日差しを遮るため最新のオフィスビルでは庇が長くなっていたり、窓が奥まっていたりする建物が増えてきました。

伊部
設計段階から省エネ志向が進んでいるのですね。

黒田
オーナーに対してのコスト削減やテナントへの快適性も考慮しつつ、設計の意図や建物の稼働状況、設備の稼働状況なども含め、建物の保全(安全を保つ)に取り組んでいます。

高度化するオフィスビルの経営

伊部
2022年6月の「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律」の改正を受けて、マンションの建て替えを検討する場合、建物の省エネ性能についても考える必要がでてきました。

黒田
東日本大震災以降、原子力発電の稼働を停止していることもあり日本国内のエネルギー需給がひっ迫。そして、建築部門のエネルギー消費量が著しく増加していることから、いわゆるこの「建築物省エネ法」が公布されました。建物の総面積が300平米以上になると届出が必要で、2,000平米を超えると省エネ基準適合性判定が義務になります。

伊部
住宅の場合、環境意識が高い若年層がでてきたとはいえ部屋を探している段階では、その建物が省エネかどうかはポイントになりにくいです。

黒田
確かに、先程お話ししたとおり企業にとって環境対応は義務的な側面がありますが、個人の場合は価値観に関する部分なので難しい。

伊部
ですので「電気代が安くなる」というように生活コストが削減できることを訴求することも併せて訴求する必要があると思います。

黒田
生活コストが下がることで興味を持ってもらえるようにするのは正解ですね(笑)

伊部
大家さんにしてみれば、入居促進の効果がなければお金を掛けて省エネ対応するインセンティブは働きません。まあ、でも実際に住んでいる人からは、「冬も足元が寒くない」などと聞くので、高断熱仕様の建物のほうが結果的には入居後の満足度は高くなると思いますが、まだ物件自体が少ないのでこれからですね。

黒田
最近、オフィスビルでは「グリーンリース」という考え方が注目されています。

伊部
はじめて聞きました!

黒田

ひとことでいうと、所有者とテナント双方で、水道光熱費などの「削減の恩恵を分かち合う」取組みのことです。

これまでビルオーナーは、費用をかけて省エネ対応しても、エネルギーコストの削減という恩恵を受けるのはテナントであるため、設備投資へのインセンティブが働かないという課題がありました。

逆に、これをテナント側から見ると水道光熱費の削減を図りたくても設備機器はオーナー所有だから手の出しようがないということになっていました。

伊部
分かりました!
そこで削減の効果を分かち合うことにするのですね。

国土交通省「グリーンリース・リーフレット」より

黒田
そうです。
初期費用をオーナーが負担して省エネ効果のある機器を導入します。テナントは削減できた水道光熱費などの一部をグリーンリース料として所有者に還元します。すると、所有者は設備投資した費用を回収することができ、テナント側はランニングコストを削減することができます。

伊部
設備の入れ替えが進むから経済活動的にもプラスですし面白い取り組みですね。

黒田
オフィスビルをとりまく世界は、リートやファンドなどの誕生もあって関係機関が増えるなど大きく変わってきています。また、コンプライアンスや環境性、BCPなどを重視するという世の中の流れもあり、まるでビルの運営は、会社を経営することと同じといってもよいかもしれません。

伊部
確かに賃貸経営においてもアレコレと気にしなければいけないことが増えていますし、消防法など法令遵守の流れもきていると感じます。

TMES株式会社 黒田康裕
株式会社ハウスメイトマネジメント 伊部尚子

~ 後編に続く ~

※前後編の2回にわけてお届けしています。後編は、
【多様化する社会~賃貸ニーズの変化と老朽化問題】をお送りします。