不動産活用ネットワークは、不動産オーナー様が直面している課題に対して最短最適な解決策を提供するため、企業の垣根を越えて協力し合うことを目的とした不動産業のプロ集団です。 この『対談』では、毎回テーマを決めて、日々オーナー様から寄せられる「お悩み」や「お困りごと」に対し、【専門家による多角的な視点での解決策】をお伝えしていきます。
商業物件のオーナーにとってテナント募集は常に気になるところです。今回は、誰もが知るあの有線放送のホールディング企業が仕掛けた不動産事業会社『株式会社USEN Properties』の溝下雄人取締役副社長(COO)をゲストに迎えてお話しを伺いました。詳しくは、本稿にゆずりますが、同社の特徴と武器は、巨大なUSENグループのリソースを活かしてリーズナブルな家賃設定を可能にした【サブリース】事業です。これは、入居するテナントにとってももちろん魅力的ですが、物件オーナーにとっては「超大手企業が家賃を保証してくれる」というとてつもないメリットがあります。聞き手は、賃貸不動産オーナー専門の保険のプロとして様々な課題解決を図っている保険ヴィレッジの斎藤慎治、そして、既にUSEN Propertiesとの事業に着手しはじめている株式会社フィル・カンパニーの肥塚昌隆です。ぜひ、ご覧ください。
※U:USEN Properties| 保:保険ヴィレッジ|フィ:フィル・カンパニー
あの有線放送会社「USEN」が始めた不動産事業
斎藤/保
今回は、インタビューの機会をいただきありがとうございます。そして、『株式会社USEN Properties』副社長へのご就任おめでとうございます(笑)
斎藤/保
早速ですが、USEN Propertiesの事業内容について教えてください。
溝下/U
当社は、USENグループ27社ある子会社の1社として店舗不動産に関する事業を運営しています。業務内容の主なものとしては、店舗用不動産のテナント募集のサブリースと仲介です。
肥塚/フィ
このインタビューをご覧になっている多くの皆様、特に40代以上の方々はUSENというと喫茶店で流れているBGMの会社というイメージが完全に刷り込まれていると思います。
斎藤/保
最近では、一般ユーザー向けの動画配信サービスなどのテレビCMも見かけるようになりましたが、確かにそのイメージが強いですね。
溝下/U
全国135拠点、約90万店舗でUSENグループが展開するサービスをご利用いただいていますが、不動産事業というのは意外に感じるかもしれません。でも実は、現会長宇野康秀の長年の構想でもありました。
斎藤/保
確かに日本全国に張り巡らされた販売網とこれまで築いてきた信用力、既存顧客のリストを活かした不動産事業は、経営者のみならず物件オーナーにとっても魅力があります。
斎藤/保
そのグループ力を最大限に活用した【サブリース】が主軸の不動産事業として具現化したのが御社のサービスということですね。
溝下/U
ただ、不動産の世界で、サブリースというと月額30万円で借りたものを40万円で貸すというような感じで、正直あまりよいイメージがありません。ですが、お話しいただいた通り、グループとしての収益を担保にサブリースの差益を可能な限り圧縮。競争力のある家賃設定で、テナント募集ができることは当社の強みであり、入居されるテナントの皆様にも喜んでいただけているポイントになっていると思っています。
斎藤/保
グループで展開するサービスでの収益があるから、競合他社のようにサブリース単体で大きな利益をあげる必要がないことは、本当に強力な武器になる。
溝下/U
皆様お馴染みの店舗向けの有線放送以外にも、「レジ」「光回線」など、店舗運営に必要な様々なサービスがあります。これらをご利用いただくことを前提に家賃設定させていただくことで、リーズナブルにご提供できています。
肥塚/フィ
当社でも、家賃保証で『USEN TRUST(ユーセン・トラスト)』のサービスを利用させていただいています。
斎藤/保
物件オーナーにとっては、超大手企業であるUSENグループが間に入ってくれるという安心感とあわせて、いわゆる「取りっパグレが無い」サブリースであることは、かなり魅力的だと思います。ちなみに、テナントはやはり飲食店が多いのでしょうか?
溝下/U
飲食店のほかにも、美容室やクリニックなども多いですね。既にUSENグループのサービスをご利用いただいていることが多いので、信頼関係が既に構築されている点も強みになります。
溝下/U
テナントごとに背景や戦略が違います。それを聞き出すことと汲みとることはリーシングを進めるうえで肝となります。これまでの信用を土台にして、それを一気に進められるのは、当社の強みといえると思います。
フドカツメンバー『フィル・カンパニー』社と推進する事業イメージ
斎藤/保
既に、USEN Propertiesとフィル・カンパニーとの間で案件が進行中とのことですが……。
溝下/U
とあるターミナル駅の『フィル・パーク』のテナント募集についてのご相談を頂戴しています。
斎藤/保
このインタビューをご覧の皆様のために『フィル・パーク』の説明を簡単にお願いします。
肥塚/フィ
はい、コインパーキングの上部空間というこれまで未活用だったスペースを有効活用した小型商業施設が『フィル・パーク』です。企画・設計から、施工、収益計画の立案、そしてテナント募集にいたるまで、当社がワンストップで行っています。
斎藤/保
一般的には、プランニング会社が企画したものを建築事務所が設計する……というように、別の会社が個々に行うことが多いですよね。
肥塚/フィ
そうですね、不動産業界ではかなり珍しいと思います。
現在(※2024年10月)、お陰様で大都市圏を中心に258棟。全て企画からテナント募集まで社内で一括管理してきました。これまで関係してきたところも含めると1,000を超える様々な業種のテナントとお付き合いがあります。これらの経験から得られたノウハウを活かしたご提案で、物件オーナーやテナントの方々にも喜んでいただいております。
溝下/U
当社からみても、フィル・カンパニーさんはテナント側のニーズや気持ちなど「テナント目線」を本当に大切にされていると感じていますが、今、お話しを頂戴している物件よりも小規模なものもおありなのでしょうか?
肥塚/フィ
駐車スペースは1台分という物件もありましたが、平均すると5~10台で敷地面積20~30坪という物件が多いですね。
溝下/U
飲食店でも美容院でも、それくらいの広さが一番需要のあるボリュームゾーンになります。
肥塚/フィ
敷地面積が70坪ある場合でも、特性に合わせてスペースを区切って募集することもあります。最初にテナントがついたからといってワンフロアーにしてしまうと、次の募集で苦労する可能性が高いので2つに分けてしまいます。
溝下/U
そのような市場感をお持ちであることも、フィル・カンパニーさんの特徴だと思います。『フィル・パーク』は2~3階建てが多いイメージがありますが、最高は何階建てですか?
肥塚/フィ
当社の本社が入居している築地の13階建てが最高層です。五反田には8階建ての物件もあります。
斎藤/保
下層階が店舗で、上層階がオフィスになる感じですね。
肥塚/フィ
はい。五反田の場合は全て店舗フロアーですが、基本構成としてはそのようなイメージでお考えいただければよいと思います。街の魅力や地域のニーズに合わせて、階数を増やしたり、内容を変えたりしていきます。
溝下/U
当社でも、都心部など街のポテンシャルが高い地域では上に引っ張ることができるので、上層階も普通にご案内して契約いただいていますので、いかに地域の特性を把握してテナントのニーズにマッチさせるかですね。
テナントのニーズと来店者心理
斎藤/保
『フィル・パーク』は、基本的に1階が駐車場になっています。一般的に店舗の場合は、1階を希望されるのではないかという感覚をお持ちの土地オーナーも多いと思うのですが、テナント募集をするお立場として、このあたりは如何でしょうか?
溝下/U
確かに、1階店舗で大きな看板を出したいというご希望が多いのは事実です。ですが、看板も出さずに空中店舗でひっそりと営業したいというニーズもあります。
このあたりは、フィル・カンパニーさんのほうがお得意だと思いますが、その地域に求められていること、土地オーナーの趣味嗜好やお考え、そしてテナントが求めることとを、どうマッチングさせるかだと思います。
肥塚/フィ
まさに、その通りなのですが、当社では駐車場もテナントのひとつだとも考えています。店舗のほうが高収益をあげられるならば、駐車場に固執することはありません。ただ、駐車場の場合、テナントが抜けて収益がゼロになってしまうようなリスクがなく、収益が安定するという特徴があります。
斎藤/保
結構、建てっぱなしで空いてしまっている物件も多いですからね。
肥塚/フィ
あと、【入居したい3階をつくる】ということも目指しています!
斎藤/保
特に階段だったりすると3階には入居したがらない(笑)
肥塚/フィ
普通に考えるとそうなのですが、1階が駐車場だと建物に浮遊感があって2階以上が不思議と目立ちます。
肥塚/フィ
加えて、雑居ビル感をださないように気をつけている点をテナント募集の際のアピールしていただければ嬉しいです。
斎藤/保
雑居ビル感をださないという点について、具体的にはどのような工夫をしているのか、物件オーナーの皆さんも気になるところだと思います。
肥塚/フィ
例えば、いわゆる雑居ビルは、空中階にお店の看板を見つけて気になったとしても、入口が暗かったり、一番奥まったところにエレベーターがあったりと、建物自体に入ることがちょっと怖い印象があります。一方『フィル・パーク』の場合は、階段を中央に配置するなど、上階へと自然と昇っていきたくなる導線を作っています。
斎藤/保
加えて、ガラス張りの明るい透明感が、安心にも繋がっている。
溝下/U
アピールポイントとして、社内で共有させていただきます!
人工知能や電気自動車が当たり前の時代に求められる不動産事業のカタチ
斎藤/保
世の中ではAI(人工知能)が当たり前に使われるようになりました。また、自動車業界もガソリンエンジンからEV(電気自動車)への転換、自動運転の普及などが見込まれています。こういった流れは、不動産の世界にも影響を及ぼすことは当然で、ガソリンスタンドが不要になったり、駐車場の仕組みも変わってしまったりと、大きな変化が起こることが容易に想像できます。
肥塚/フィ
大きな変化が訪れることは間違いないと思いますが10年先ならば、なんとなくですが想像できます。ただ、それが20~30年となると予想することが一気に難しくなってしまうので、早めに投資回収をすることを物件オーナーの皆様にはお勧めしています。
斎藤/保
投資回収さえしてしまえば、ある意味では損することはなくなるわけですが、建物の減価償却はどれくらいの期間ですか?
斎藤/保
賃貸住宅を建てる場合は、40~50年かけて投資を回収していくイメージです。さらに、物価上昇による建築資材の値上げや人手不足による人件費の高騰などもあって現実的ではなくなってきています。
肥塚/フィ
賃貸住宅と比べると投資効率は1.5倍。特に商業物件の場合は、新築だから入居するというものでもありません。少々古くても、集客できる地域の物件であればテナントはすぐにつくこともあるので、住宅とは大きな違いもあります。
溝下/U
私は「ビルの引力」とよくいっていますが、その建物にどれだけ集客できる力があるかがともて大事です。例えば、当社の場合は全国にあるネットワークを活かして、京都や大阪から東京初出店をプロデュースさせていただくようなことがあります。
溝下/U
もちろん、一過性のものでは意味がありません。先ほどの導線のお話しにもあったように地域や関わる人々の要望や思いにマッチしていること。新たにプランニングする場合でも、既存物件のテナント募集でも、脚本ともいえるストーリーがあること。それらを入居の検討をされるテナントに対して語れること、認知を高めるためのプロモーションができることも重要です。
斎藤/保
先日、医療モールの関係者と話をしたのですが、駐車場がないと集客しづらいといっていました。もちろん、郊外に足を延ばせば駐車場はありますが、都心部に階下が駐車場になった『フィル・パーク』仕様の医療モールあれば人気になるかもしれません。
溝下/U
実は、副社長に就任させていただいたのと同時期に社内にメディカル課を設立いたしました。
溝下/U
はい。もともと、サブリースの部署内にクリニックを専門とする担当がいたのですが、それが独立部隊になりました。
斎藤/保
大きな病院より、小さな医院が集まった医療モールの方が便利だというニーズは高いので、時代はそちらに向かっていくと思います。
肥塚/フィ
同感です。ただ、先ほど投資効率のお話しをしましたが、回収が早ければ何でもよいというものでもないとも考えています。
溝下/U
そこの部分は、以前フィル・カンパニーさんと打合せさせていただいたときに、非常に共感したところです。
肥塚/フィ
もちろん、回収が早いことに越したことはありません。ですが、長い目で見て本当に大事なのは、街と関係する全てのひととの相性を考えたうえで安定かつ継続性のある収益を実現することです。
溝下/U
本当にそうですよね。70坪のフロアーを2つに分けるお話しがありましたが、目先に囚われず、関係者にとって最適となるように先の先を考えることが大切だと感じます。
肥塚/フィ
可変性だと考えています。
例えば『フィル・パーク』の2階で営業する飲食店が1階の駐車スペースにキッチンカーを停めてテイクアウト事業を展開する。オフィスフロアーに入居した社長の車出勤のためにコインパーキングの1台分を月極駐車場として契約するようなことに柔軟に対応できる設備と体制を整えておくことがポイントです。
溝下/U
そうした積み重ねが「街がよくなること」に繋がっていきます。
肥塚/フィ
結果として、街の豊かさや賑わいを生み出すことになります。
斎藤/保
簡単そうにみえて、実はこれが難しい。時代や状況の変化に柔軟に対応できるようにしておくことで、安定と継続性が担保されるようにする。最後に、溝下さんから一言いただきたいと思います。
溝下/U
フィル・カンパニーさんとは、本当に共感できるところが多いので、まずは現在お引き合いを頂戴している案件を成功事例にしたいと思います。それには、従来の考え方や常識に囚われていてはダメで、凝り固まった頭を捨てることが重要です。
そして、USENグループで展開しているデジタルサイネージなどによる集客や防犯カメラなどのセキュリティサービスをパッケージ化させて、フィル・カンパニーさんとのコラボ商品が実現できればよいと思いました。
肥塚/フィ
今後は、大都市圏以外にも展開をしていきたい、もっと広く『フィル・パーク』を知っていただきたいと考えています。当社だけでは当然限界もあります。USENグループさんの力をお借りしたいと思います。
《終了》
株式会社USEN Properties 溝下 雄人取締役副社長COO
保険ヴィレッジ 斎藤慎治
株式会社フィル・カンパニー 肥塚昌隆
フィル・カンパニーは、【駐車場から読み解く未来の土地活用のカタチ】というテーマでも対談しています。