不動産活用ネットワークは、不動産オーナーのお困りごとに対して最短最適な解決策を提供するために、企業の垣根を越えて協力し合うことを目的とした不動産業のプロ集団です 。 Q&Aコーナーではオーナー様からのお悩みと専門家による解決方法をご説明いたします。
今回のご相談
働く場所で「健康・快適」でいられること、ウェルネスの重要性
ESG投資の促進に関する世界的な潮流の中で、不動産そのものの環境負荷低減だけでなく、執務環境の改善、知的生産性の向上、優秀な人材の採用などの視点から働く人の健康性、快適性などに優れた不動産へ注目が高まっています。2018年3月には国土交通省が公表した「健康性、快適性等に関する不動産に係る認証制度のあり方についてのとりまとめ」に基づき、「CASBEEウェルネスオフィス」など建物を利用する人の健康性、快適性の維持・増進を支援するための建物の仕様、性能、取組みに関する評価ツールなども誕生し、不動産における健康性・快適性を一つの価値として評価する動きが進んできています。
働き方の多様性、ワーカーそのものの減少、長時間労働の規制などの流れの中で、ひたすら仕事の総量に頼る考え方ではなく、いかに限られた人員、限られた時間の中で効率よく成果を出すかということにおいて各企業単位でも健康、ウェルネス経営を推進するさまざまな取組みが行われています。
ウェルネス経営が実施できていないと、どうなるか?
ウェルネスがオフィスにおいて損なわれるということについて、労働のパフォーマンスの損失を示す指標として「プレゼンティーズム」「アブセンティーズム」についてWHO(世界保険機関)が提唱しています。「プレゼンティーズム」とは出勤はできるが、健康問題に起因する症状によって生産性が下がっている状態、「アブセンティーズム」とは、健康問題によって仕事を欠勤している状態のことを指します。
「プレゼンティーズム」はまだ出勤ができている状態ですが、生産性の低下によって間接的なコストがかかっているとも言え、プレゼンティーズムによる損失が結果的に業務生産性の低下を招いていると言えます。
オフィスにおけるウェルネスのメリットと実践事例について
オフィスにおけるウェルネスのメリットは前述したプレゼンティーズム、アブセンティーズムの解消のほか、企業イメージの向上・企業全体の活性化、そして企業がウェルネス推進に取り組んだ結果従業員の怪我・病気が少なくなれば医療費の減少も期待できますので、健康保険料の増加を緩やかにすることが可能となってまいります。
ここで少し各企業の実践事例を紹介したいと思います。
❶昇降式デスクの設置
これは各オフィスでも簡単に導入できる事例ですが、従業員のデスクを昇降型にするなどの工夫で長期的な着座姿勢を解消することにより、体循環の促進などさまざまな効果が期待できます。
❷ボルダリングウォールの設置
アマゾンジャパンでは、オフィス内に従業員が利用できるボルダリングウォールを設置しているそうです。休憩時間などのスキマ時間でも積極的に運動できる機会が持てます。
運動することと同様に大切な「メンタルヘルス」
当然、健康とは身体的な部分に限られず、心、メンタルの部分も健全に保たれることで初めて達成されるものだと思います。心の健康を手助けするオフィスの仕掛けとして人間の「五感」に訴え、働く人々が心地よく、快適だと感じる設備をオフィスの中に設置するような動きも目立ってきています。その中でも最近注目されているのが「緑視率」の考え方です。これは人の視界に占める緑の割合を測る指標で、緑の多さを表す指標です。緑視率は、疲労感の軽減や快適性の向上を示すと言われ、国内の調査でも「緑視率が高い場所ほど安らぎを感じる人が多い」という結果が出ています。
ただし、オフィスにおける緑視率の最適水準は「10%~15%」であると算出されており、オフィス内の緑視率が高すぎる場合は逆に生産性や空間への満足度が低下するという調査結果が出ており、一定の割合でオフィス内の緑化を促すことは、ホルムアルデヒドなどの化学物質の吸収、エコプラントによる空気清浄効果などのほか、精神的な安らぎ、ストレスの軽減をもたらす有力なツールになります。
ウェルネス経営のために、ビルオーナーも協力と提案の姿勢を!
働き手の減少が進む日本においてウェルネス経営の取り組みは、企業の持続的成長において必須の取組みになってきています。ウェルネス経営を実践する上では、身体的・精神的な健康を保持・増進する行動を増やすことを働き手であるワーカーに求めるのではなく、戦略的かつ自発的に行動が誘発される環境を企業自身が提供することが必要だと思います。企業の課題はその時々でさまざまであり、その時々の課題解決に応じてオフィスのスタイルも柔軟に可変できるよう、客観的なオフィスの評価システムなども用いながら、常に「今」のベストパフォーマンスが発揮できるオフィス環境を整えたいものです。
そういった視点からテナントである企業からビルオーナーへ改善要望や協力を求められる機会も今後多くなることも予想されますが、今回ご紹介したようなオフィス創りの新しい流れを理解いただき、ビルオーナーの皆様には協力と提案の姿勢でこれからの快適なオフィス創りを目指してもらいたいと思います。