対談インタビュー

賃貸経営オーナーが知っておくべき、みなし仮設など災害支援の仕組み

不動産活用ネットワークは、不動産オーナー様が直面している課題に対して最短最適な解決策を提供するため、企業の垣根を越えて協力し合うことを目的とした不動産業のプロ集団です。 この『対談』では、毎回テーマを決めて、日々オーナー様から寄せられる「お悩み」や「お困りごと」に対し、【専門家による多角的な視点での解決策】をお伝えしていきます。

能登半島地震を機に、地震や風水害などの自然災害への備えについて「どうすればよいのか?」と悩まれているビルやマンションオーナーに向けて行った対談の第二弾。今回は、「みなし仮設」を中心テーマに賃貸不動産オーナー専門の保険のプロとして様々な課題解決を図っている保険ヴィレッジの斎藤慎治、そして管理会社の立場で不動産オーナーから不動産の更なる利活用などに関する課題に日々向きあっている株式会社ハウスメイトマネジメントの伊部尚子、そして今回もゲストに埼玉県の和光市役所で防災関連部門に勤務する間、東日本大震災や熊本地震への被災地支援経験があり、気象予報士の資格もお持ちの渡邉宗臣さんをお招きして対談いたしました。

内 容

▼賃貸オーナーも知っておきたい「みなし仮設」とは?
 -「みなし仮設」とは?
 -応急危険度判定と住家被害認定の違い(前回対談の復習)
 -みなし仮設は「災害救助法」に定められている

▼能登半島地震で浮き彫りになった「みなし仮設」を取り巻く問題
 -県と市町村間での情報錯綜
 -都道府県が対応するうえでの限界

▼教訓を活かして迅速化してきた震災後の情報発信と役割分担
 -迅速化した「みなし仮設<入居可能一覧リスト?」配信
 -ネット時代もアナログが的な下支えと備えが重要

※和:和光市役所| 保:保険ヴィレッジ|ハ:ハウスメイトマネジメント

賃貸オーナーも知っておきたい「みなし仮設」とは?

伊部/ハ
伊部/ハ
前回、『賃貸経営オーナーが知っておくべき自然災害時の居住者への公的補助の仕組み』と題して、先日の能登半島地震直後に発生してしまった混乱や、主に「応急危険度判定と住家被害認定」という2つの制度の目的や違い、そして災害時や備えとして具体的にどのようにすればよいのかなどについて伺いました。
渡邊/和
渡邊/和
まだまだ、復旧半ばというニュースも目にします。一日も早く日常生活に戻れるよう願うばかりです。
斎藤/保
斎藤/保
改めて、この震災により被害に遭われてしまった皆さまへお見舞い。そして、ご家族や大切なひとを亡くされた方々に謹んでお悔やみ申し上げたいと思います。
伊部/ハ
伊部/ハ
早速ですが、今回は「みなし仮設」についてお伺いしたいと思います。
渡邊/和
渡邊/和
前回お話しした、応急危険度判定と住家被害認定の後者に関係するお話しです。
伊部/ハ
伊部/ハ
はい、応急危険度判定はあくまでも「危ないから近寄っちゃだめ!」という判定が、緑色・黄色・赤色の3段階で示されるもの。今回のお話しいただくみなし仮設や罹災証明とは無関係で、あるということはしっかり覚えました(笑)

 

応急危険度判定と住家被害認定調査票
渡邊/和
渡邊/和
よかったです(笑)
まず、一般的にみなし仮設と呼ばれていますが、「賃貸型応急住宅」が正式な名称になります。要するに、民間の賃貸住宅を借り上げて被災者に供与した仮設住宅のことですが、「賃貸型仮設住宅」や「借り上げ仮設」とも呼ばれることもあります。
伊部/ハ
伊部/ハ
よく、学校の校庭などに建てられている住宅も同じ制度のものですよね。
渡邊/和
渡邊/和
はい、あちらは「建設型応急住宅」と呼ばれていますが、両者をあわせて「応急仮設住宅」と呼ばれます。
斎藤/保
斎藤/保
普通に生活していると、賃貸経営オーナーも含めてほとんどの方は法律を意識していないと思います。みなし仮設について調べるには、どうすればよいでしょうか?
渡邊/和
渡邊/和
根拠となる法律は「災害救助法」で、都道府県が被災状況を把握して災害救助法の適用の可否を判断します。災害救助法が適用されると、みなし仮設でいうならば、都道府県が被災者に賃貸型応急住宅を供与することになります。

具体的な支援の実施方法については、災害救助法やその施行令などにもありますが、都道府県が実施要綱などで定めます。

適用される要件として、住まいが全壊してしまい住む家がない方、半壊でも住宅として再利用できずに解体をされる方、二次災害などの恐れや避難指示、ライフラインが途絶されている方などが対象者となること、家賃の上限などが定められています。

伊部/ハ
伊部/ハ
ライフラインの場合は、復旧次第、自宅に戻らなくてはいけませんね。
渡邊/和
渡邊/和
他に理由となる条件がない場合は、そうなります。あと、気をつけていただきたいのが地域です。災害救助法は市区町村単位で適用されますので、災害救助法が適用された地域の住まいでないと、そもそも対象とならず申請自体ができません。
伊部/ハ
伊部/ハ
万が一ですが、被災しながらも適用されていないこともありうる。居住者はもちろんですが、我々のような仲介業者も気をつける必要がありますね。
渡邊/和
渡邊/和
くわえて、みなし仮設として被災された方を受け入れる側の大家さんや仲介される不動産業の方々は、その物件がみなし仮設の受入エリアとして認められているかの確認も必要です。今回の場合は、石川県、富山県、福井県、新潟県が対象の地域となっていました。
伊部/ハ
伊部/ハ
今回の場合は、東京の賃貸オーナーが、善意で貸し出そうと思っても指定地域外ゆえにみなし仮設としては受け入れることはできない。まあ、そもそも東京の中心部では、定められている家賃の上限にも収まらないので現実的には受入はできないとも思いますが……。
斎藤/保
斎藤/保
比較的地価が高い地域においては上限家賃が問題になりますね。災害がおきた際、みなし仮設の制度を利用しようと思ったら、法律上の上限に収まる家賃の安い地域へと引っ越す必要がある。
渡邊/和
渡邊/和
被災した家屋の片付けの利便性や元々暮らしていたコミュニティを守るという意味でも、近くに住まうことが理想ですが、みなし仮設の上限家賃は都道府県ごとに決まっていて、和光市のある埼玉県でも全ての市町村が一律で同じ金額になっています。山間部と都市部が同じ家賃設定になっているため、条件に合う物件数が少なく、相応の物件探しに苦労したこともあります。
斎藤/保
斎藤/保
家族で暮らすための広さを求めると地価に比例して家賃が高くなってしまうのは当然。特に、埼玉県は地価に幅があるから厳しいといわざるをえませんね。
伊部/ハ
伊部/ハ
みなし仮設の制度設計上の課題ともいえる部分にもお話しが及びましたが、次に今回の能登半島地震で直面した実務上の問題についてお話ししていきたいと思います。

能登半島地震で浮き彫りになった「みなし仮設」を取り巻く問題

伊部/ハ
伊部/ハ
災害救助法という法律で定められていたとしても実際に契約業務を行う仲介の現場は大混乱。目の前にいらっしゃるお客様が「みなし仮設への入居する権利があるのかないのか?」を、われわれは当然ながら判断できませんし、市役所に連絡しても当然電話は繋がらないという状況で、本当に大変でした。
渡邊/和
渡邊/和
市役所に連絡というお話しがでましたが、災害救助法の建付けは、都道府県知事が救助を実施する主体となっています。
ただ、同法の第十三条をご覧いただくと…
第十三条(事務処理の特例)
1 都道府県知事は、救助を迅速に行うため必要があると認めるときは、政令で定めるところにより、その権限に属する救助の実施に関する事務の一部を災害発生市町村等の長が行うこととすることができる。
2 前項の規定により災害発生市町村等の長が行う事務を除くほか、災害発生市町村等の長は、都道府県知事が行う救助を補助するものとする。
という記載があります。
斎藤/保
斎藤/保
法律の趣旨としては、都道府県と市区町村とがそれぞれ状況に応じ適宜対応が可能なように規定しているのだと思いますが、責任が曖昧になってしまっているようにも見受けられます。
渡邊/和
渡邊/和
そうですね。災害に応じて市町村に委任される事務の内容は、その都度規定されると思いますが、今回の石川県の事例では、市町村が中心の窓口となって対応を進めていたことが賃貸の契約書からみてとれます。
伊部/ハ
伊部/ハ
これまでの災害を見ていると、石川県と家主と賃借人の三者契約になるのかと思っていました。
渡邊/和
渡邊/和
これまでの災害対応では、みなし仮設の契約は、貸主(物件オーナー)―借主(行政:都道府県)―転借人(被災者)という三者での賃貸借契約を締結する形をとっていて、市町村は入居希望者の相談・受付・調整を任されていました。今回は、行政側の契約主体が都道府県ではなく、市町となっていましたので、より多くの事務委任があったものと思われます。
こういった、これまでとは対応の仕方が違うケースでは、現場サイドに混乱が生じてしまっていたかもしれません。
伊部/ハ
伊部/ハ
賃貸管理業界でも、過去の災害時のみなし仮設の契約対応などを共有していましたが、過去とは契約形態が違ったのでそのまま参考に出来なかったのかもしれません。契約主体が市町でも石川県に相談しながらの契約締結となれば二度手間も発生しそうです。

みなし仮設の相談を受けていた不動産業者仲間に聞いた話では、石川県や被害のあった市町村のホームページを確認しながら業務をしていたのですが、隣の市との表現が微妙に違って別の意味にも解釈できそうな状態だったり、次の日には更新履歴の記載もなく内容が書き換わったりしていることもあり、行政側の現場の混乱を感じました。

渡邊/和
渡邊/和
実施方法や要件の設定は石川県が行っているため、窓口となる市町では、被災者からの問い合わせは、内容によっては県に確認してからでないと答えられないこともあり、時間と手間がかかってしまいます。行政側もギリギリの対応のなかで、少しでも早く正しい情報を発信するべく更新をしていたのではないでしょうか。
伊部/ハ
伊部/ハ
同感です。ただ、我々としても、あきらかにみなし仮設の認定がおりる方の対応はできても、ちょっとイレギュラーなことがあると勝手には判断ができないので市役所などに問合せをせざるをえません。まあ、そもそも電話が通じないのですが、市町村としても県に確認しないと結論がだせず、先に進められないような様々な問題が起きていたということですね。
斎藤/保
斎藤/保
今回の地震に限らず、都道府県からの人材が派遣されることはないのでしょうか?
渡邊/和
渡邊/和
当然ありますが、あくまでも応援であって主体は市区町村の職員となります。
伊部/ハ
伊部/ハ
都道府県の職員がそばにいてくれれば、市区町村の方もその場で確認できることもあるので助かるとは思います。ですが、市役所などの職員の方も、我々のような一般企業の従業員も被災しながら働いているという状況を考えると、もう少し何とかならないものかと思ってしまいます。

教訓を活かして迅速化してきた震災後の情報発信と役割分担

伊部/ハ
伊部/ハ
みなし仮設への入居手続きをする現場が混乱してしまったというお話しをしましたが、「入居可能物件一覧」などについては、かなり早い段階から情報発信されるようになりました。
渡邊/和
渡邊/和
これまでの教訓を活かして、各自治体が業界団体や企業各社との連携を深めていった成果だと思います。
伊部/ハ
伊部/ハ
インターネットを活用し、更新頻度もかなり高くなったのは事実ですが、不動産業界としては、実際にそこに住めるのかどうかを確認しなければならないアナログな業務が負担であることは変わりがありません。
斎藤/保
斎藤/保
確かに「行ってみたら被災していた」「水道やガスが出なかった」では意味がありませんからね。ちなみに防災対策の一環として、みなし仮設の窓口をどのようにするかなど、避難訓練のようなことは実施しているのでしょうか。
渡邊/和
渡邊/和
各都道府県は指針やマニュアルを作成し、関係団体と「模擬訓練」を行っているはずです。
伊部/ハ
伊部/ハ
自分が不勉強なだけかもしれませんが、私の働く東京都ではまだ模擬訓練までできていないと思います。
斎藤/保
斎藤/保
日本では自衛隊の役割も大きい。
渡邊/和
渡邊/和
自衛隊の災害派遣ですね。災害の状況を全般的に把握できる立場であり、対策の一次的な対応を担う都道府県知事が要請を行うことになっています。
斎藤/保
斎藤/保
被災当初、負傷者の救助や避難所の開設などへの対応が必要になるので、市役所などの職員は消防や自衛隊と協力してそちらに集中していただく。その間、都道府県職員が主導的な立場でみなし仮設などの対応を行うような役割分担ができれば理想ですね。
渡邊/和
渡邊/和
特に「72時間の壁」といわれる最初の3日間は、人命救助に集中できるような体制を整えたいところです。
伊部/ハ
伊部/ハ
一般的に水・電気・ガスなどのライフラインが停止し支援物資の到着までに3日程度、要するに72時間がかかるともいわれています。その間は自力で対応するための備蓄をしておくことが市民の役割ともいえますね。
後編では、【みなし仮設という制度への理解と仲介の現場を救うアイデア】をテーマにお話を伺います。

保険ヴィレッジ 斎藤慎治
株式会社ハウスメイトマネジメント 伊部尚子

~ 後編に続く ~

※前後編の2回にわけてお届けしています。後編は、
【みなし仮設という制度への理解と仲介の現場を救うアイデア】をお送りします。