対談インタビュー

賃貸経営オーナーが知っておくべき資産活用~保険と投資のあり方

不動産活用ネットワークは、不動産オーナー様が直面している課題に対して最短最適な解決策を提供するため、企業の垣根を越えて協力し合うことを目的とした不動産業のプロ集団です。 この『対談』では、毎回テーマを決めて、日々オーナー様から寄せられる「お悩み」や「お困りごと」に対し、【専門家による多角的な視点での解決策】をお伝えしていきます。

賃貸経営のかたわら、金融商品などへの投資にも取り組んでいるビルやマンションオーナーは多いのではないでしょうか。昨今、新NISAや日経平均の高騰、円安などの話題とますますマーケットへの注目度が高まっています。今回は、証券会社で相続の専門部隊として活動をしているアイザワ証券株式会社の久保仁と、賃貸不動産オーナー専門の保険のプロとして様々な課題解決を図っている保険ヴィレッジの斎藤慎治が、賃貸経営オーナーに必要な資産運用方法とポイントについて対談しました。

内 容

▼生命保険という仕組みと相続税について
 -銀行、証券、保険か、銀行、保険、証券か?
 -投資はお金の置き場所

▼賃貸オーナーが相続税対策として用意すべき生命保険
 -養老保険と終身保険の違いとメリット
 -外貨建て保険という選択肢に注目!?

▼守りの保険、攻めの証券!?
 -投資における「3つの分散」とは?
 -非課税枠のフル活用で守り、長期の積立で攻める!?

▼賃貸オーナーをとりまく価値観の変化と世代間格差
 -大家さんに定年がないメリットとデメリット
 -相続前に苦労をするか?あとにするか?

※ア:アイザワ証券| 保:保険ヴィレッジ

生命保険という仕組みと相続税について

久保/ア
久保/ア
今回は、賃貸オーナーに必要な資産活用についてお話をしていきたいと思います。
斎藤/保
斎藤/保
よろしくお願いします。
いきなりですが、久保さんは証券会社の方としては面白い立ち位置ですよね。
久保/ア
久保/ア
確かに証券会社というと個別の株式銘柄や投資信託を推奨するように思われてしまうかもしれません。今、日経平均の高騰や新NISAの話題で盛り上がっていますが、私は相続や事業承継などお客様の課題を解決するソリューション部に所属していますので、そういった意味では業界内では珍しい立場かもしれません。
斎藤/保
斎藤/保
本当に良い立ち位置だと思います。
久保/ア
久保/ア
ありがとうございます。では早速ですが、簡単に保険の仕組みについてお聞かせください。
斎藤/保
斎藤/保
よくお話しするのは、生命保険の場合は命の補償。要するに収入補償であり、万が一の際に、得られるはずだったお金を補ってもらうことができる仕組みです。毎月の給料を基準に人生設計をしていたのに、その収入がなくなってしまったら計画がくるってしまい、これまでと同等の生活が維持できなくなってしまいます。
久保/ア
久保/ア
賃貸オーナーですと、賃貸物件がある限り収入が途絶えることがないと思われますので、必要な保険が変わってきますね。
斎藤/保
斎藤/保
そうなんです。サラリーマンの方とは違って収入補償はいりません。ですが、家賃収入が積みあがって資産が増えていくと相続税が高くなってしまいますので、生命保険の非課税枠を最大限に活用するための保険は必須といえます。
久保/ア
久保/ア
私も、相続のご相談をお受けする際に、相続税の基礎控除とあわせて生命保険の非課税枠についても確認をするようにしています。

斎藤/保
斎藤/保
相続税の基礎控除が、3,000万円+600万円×法定相続人の数。生命保険の非課税枠は500万円×法定相続人の数となります。奥さんとお子さん2人だと仮定すると、基礎控除が3,000万円+600万円×3人で4,800万円。生命保険の非課税枠が500万円×3人で1,500万円。合計すると6,300万円になります。
久保/ア
久保/ア
1,500万円は大きいですね。やはり非課税枠を使わないのはもったいない。
斎藤/保
斎藤/保
しかも、相続税は累進課税なので対象額をこれらの控除によって減らすことで、税率のテーブルを下げられる可能性もあります。
久保/ア
久保/ア
生命保険にさえ入っていれば…という後悔はさせたくないですね。
斎藤/保
斎藤/保
敢えて簡単な言葉にすると、これは「お金の置き場所」の話で、銀行にお金があればそのまま課税対象、保険会社にあれば死亡保険金非課税控除の対象になるということです。

賃貸オーナーが相続税対策として用意すべき生命保険

久保/ア
久保/ア
生命保険の非課税枠をフル活用するためには、どのような生命保険がよいですか?
斎藤/保
斎藤/保
ずばり、終身型の生命保険です。相続税の基礎控除を超える資産の分だけという前提ですが、最低でも法定相続人ひとり当たりの非課税枠500万円が受けとれるように契約することをお勧めします。
久保/ア
久保/ア
養老保険をご契約されている方も多いと思いますが……。
斎藤/保
斎藤/保
養老保険は、期間を決めて補償を受けながら運用をしていく仕組みになります。万が一、ご契約期間中にお亡くなりになった場合は、終身保険同様に非課税枠が使えますが、無事に満期を迎えると現金として入ってきてしまうため、対策にはならなくなってしまいます。
久保/ア
久保/ア
やはり終身保険が有効ですね。
斎藤/保
斎藤/保
はい。終身は文字通りお亡くなりになるまで続く契約。これが必要です。
また、死亡保険金は申請すれば2~3日で受取人のところに入金されますし、受取人も指定でき遺産分割協議の対象外です。お亡くなりなった方の銀行口座が使えず、手元にまとまった現金がなくて葬儀費用の支払いにお困りになるというお話をたまに聞きますが、すぐに使える現金が手元にあるメリットも大きいです。そして、不動産は均等に分けることがきわめて難しい資産ですから、死亡保険金によって資産価値のバラツキを均等にする役目も果たします。死亡保険金はいわば、「遺産分割資金」ですね。
久保/ア
久保/ア
相続税には物納制度もありますが、現金納付が原則ですので手元にお金が入ってくるということもメリットといえますね。
 

斎藤/保
斎藤/保
そうですね。
あと、サラリーマン大家さんに多いのですが、賃貸物件を買うと定期的な収入ができたからといって生命保険を解約してしまう方がいらっしゃいます。収入補償という観点からすると正しい選択といえますが、家賃収入が増えていって安定するまでは収入補償的な保険が必要です。そして、新たな物件を購入するなど家賃収入が順調に増えていって専業大家さんになると収入補償は不要になりますが、今度は逆に現金が資産として積みあがっていくために相続税を支払うための準備が必要になります。先程もお伝えしましたが、この相続を念頭においた準備が本当に重要です。
久保/ア
久保/ア
賃貸物件があるからと解約してしまったら、生命保険の非課税枠が使えなくなってしまう。
斎藤/保
斎藤/保
しかも、年齢があがるごとに死亡リスクは高まっていくので、当然ながらあとから契約しようとすると毎月支払う保険料も上昇。さらに、病気や大きなケガなどが発生してしまうと新たに加入することができない恐れさえあります。
久保/ア
久保/ア
あの時、解約しなければよかったということになってしまっては元も子もありません。
具体的にお勧め生命保険はありますか?
斎藤/保
斎藤/保
最近は、外貨建ての一時払い保険をお勧めしています。円安の局面では条件的に不利のように思われがちですが、実は積立利率は逆に高くなるので、決して不利ではないのです。
年齢や条件にもよりますが約500~800万円の掛金で死亡保険金が2,000万円相当。先程、お伝えした通り銀行に預けていれば、そのまま相続税の課税対象。保険会社に預ければ、お子さんが3人と仮定すると、奥様とあわせて全額が非課税枠で受け取れることになります。
久保/ア
久保/ア
2倍以上の投資効率は驚きですが、昨今ニュースになっている円安など、為替変動の影響は受けないのでしょうか?
斎藤/保
斎藤/保
今後、円高になって1ドル80円になっても損はでない計算になります。
久保/ア
久保/ア
それは面白い保険ですね!
斎藤/保
斎藤/保
しかも、死亡保険金はドルのままで受け取ることも可能なので、受取人は円安になるまで外貨預金として保持すればいいのです。ちなみに、相続発生時の円換算の資金が相続財産として計上されるため、円高傾向のときに死亡した場合には資産の圧縮効果が絶大です。

守りの保険、攻めの証券!?

斎藤/保
斎藤/保
まず、生命保険の非課税枠をフル活用するという備えができれば、一定の守りの体制は整えたといってよいと思います。そこで攻めとして株式投資を含む証券の世界のお話をお聞きしたいと思います。
久保/ア
久保/ア
確かに投資というと攻めの印象があるかもしれませんが、皆さんが思う「○○という銘柄があがりそうだから買う…」というような短期売買を誰もがされているわけではありません。むしろ昨今話題になっている新NISAの「つみたて投資枠」などは守りの要素が強いといえます。
斎藤/保
斎藤/保
なるほど、コツコツと積立投資をする場合は確かに守りの要素が強いかもしれませんね。
久保/ア
久保/ア
はい。
投資には「3つの分散」があります。
一つ目は、「預貯金」「証券」「不動産」などの【対象の分散】。
二つ目は、「国別」「地域別」という、通貨を含めた日本や米国、欧州、新興国などの【地域の分散】。
三つ目は、【時間の分散】で、これは「ドルコスト平均法」で知られるように、時間をかけて定期的に積み立てていく定時定額買付による分散方法です。
斎藤/保
斎藤/保
投資対象と地域を分散しつつ、時間も味方にして投資をする。

 

久保/ア
久保/ア
あわせて、新NISAにより非課税保有限度額1,800万円を活用することが可能になりました。通常は投資で得られた売却益や配当金などの利益に対して約20%かかる税金が非課税になります。ご夫婦であれば3,600万円を非課税で運用できるということになります。
具体的には、株式投資で100万円の利益があったとすると、税金として20万円の支払いが必要だったものが不要になりこの20万円も再投資が可能になるということです。
斎藤/保
斎藤/保
利益の20%は大きいですよね。これまでのNISAでは期間が限定されていましたが、新NISAでは無期限化されましたよね。
久保/ア
久保/ア
はい。これで完全に時間を味方にできるようになりました。
これは、新NISAの話ではありませんが、時間の分散の良い例をお話しすると、実はバブルの前から日経平均株価に投資している方でも、その後コツコツ積み立てていたとすると、日経平均が新高値を更新する前にプラスが出ている計算になります。
斎藤/保
斎藤/保
失われた30年を挽回できている!?
生命保険も早く始めれば月々の保険料は安くすみます。これもある意味では投資の決断であり、時間を味方につけているといえます。
久保/ア
久保/ア
証券会社の人間としては、保険はどうしてもお金が寝てしまう印象がありましたが、先ほどの外貨建て生命保険などは攻めの要素がありますし、非課税枠をフル活用するという守りを固めるためには必要な投資ですね。
斎藤/保
斎藤/保
相続税の基礎控除、生命保険の非課税枠を超えてしまう部分は、新NISAを活用して非課税運用をするのも良いかもしれません。

賃貸オーナーをとりまく価値観の変化と世代間格差

斎藤/保
斎藤/保
賃貸オーナーは、ほぼといってよいほど株式投資をされているイメージがあります。
久保/ア
久保/ア
同感ですが、相続が発生した場合、世代的な影響もあるのか奥様が「株のことは、分からないから売却して現金にして欲しい」とおっしゃる方もいらっしゃいます。
斎藤/保
斎藤/保
確かに、比較的高い年齢層の女性はそのような傾向があるかもしれません。けれども、ネット証券とスマートフォンの登場で、特に若い世代は投資に関する価値観が変わってきたのではないでしょうか?
 

久保/ア
久保/ア
最近、地域の公民館や市民会館などの利活用推進と住民サービスを兼ねて、新NISAなどに関するセミナー開催のご要望をいただきます。年金不安があるのか特に若い世代は男女問わず積極的ですね。
斎藤/保
斎藤/保
相続に関する相談会なども実施されていますよね?
久保/ア
久保/ア
相続に関する相談会の場合は、ご高齢の方もそのお子さん世代もいらっしゃいます。相続のことが気になって子ども世代が話を聞きに来たけど、親世代が全く興味を持っていない場合もあったり、その逆で親世代が子どもに引き継ぐために頑張って話を聞きに来ても、「不動産の管理なんてわからないし面倒だから残さないでくれ」と子どもから言われてしまっていたりとご要望もお悩みも様々です。
斎藤/保
斎藤/保
大家さんには定年がない、一生涯現役だからなおさら難しい。引き継いで引退するにしてもなかなかキッカケがないし、子ども世代にも考え方があるし価値観も違う。でも、準備もなく亡くなってしまったら、残された奥様や子ども世代は困ることになる。
要するに、親世代が楽をして備えをしなければ子ども世代が恐らく相続で苦労をするし、親世代が時間と手間をかけて備えれば子ども世代は楽に引き継げる可能性があるということです。
久保/ア
久保/ア
でも、その備えが子ども世代の考えや価値観と合致していなければ意味がなくなってしまうからこれが難しいところです。相続の準備というと税金面のお話が中心になりますが、本当に大切なのはご家族の話し合いであり、お互いの納得なのだと感じます。
斎藤/保
斎藤/保
保険業界の人間としては、証券会社の方は資産運用の相談相手という、かなりよい立ち位置を確保できていると感じるのですが如何でしょうか。
久保/ア
久保/ア
その答えは、イエスでありノーといえます。保有資産を詳細にお話いただける場合もありますが、担当者からセールスされると面倒なのでと、資産を少なく申告されている場合もあります。実際、我々のような相続専門部隊が伺うと、担当者から聞いていた話と違うということが、たまに発生します(笑)
斎藤/保
斎藤/保
開示しづらいお気持ちもわかりますが、全てを教えていただかないと責任をもった提案ができないのは証券会社も保険会社も同じなんですが……(笑)
久保/ア
久保/ア
後編では、損害保険や法人に関わる部分について、お話していきたいと思います。

アイザワ証券株式会社 久保仁
保険ヴィレッジ 斎藤慎治

~ 後編に続く ~

※前後編の2回にわけてお届けしています。後編は、
【不動産管理法人における損害保険と投資戦略の在り方】をお送りします。