対談インタビュー

高齢化社会 核家族化で深まる 借地契約の 問題解決!

不動産活用ネットワークは、不動産オーナー様が直面している課題に対して最短最適な解決策を提供するため、企業の垣根を越えて協力し合うことを目的とした不動産業のプロ集団です。 この『対談』では、毎回テーマを決めて、日々オーナー様から寄せられる「お悩み」や「お困りごと」に対し、【専門家による多角的な視点での解決策】をお伝えしていきます。

口約束が当たり前!? 不動産業者でも分かりづらい借地契約の世界

インターネット、さらにスマートフォンの登場で大きく変化してきた世の中の流れは、不動産業界にも押し寄せてきています。今回は、底地の管理事業と買取事業を中心に活躍する株式会社サンセイランディックの村木彩と、日々、管理会社の立場で不動産オーナーの課題に向きあっている株式会社ハウスメイトマネジメントの伊部尚子が、底地にまつわる課題やその具体的活用方法などについて対談しました。

伊部
同じ不動産業界ですから、底地、借地権、借地契約という言葉自体は知ってはいますが、不動産活用ネットワークのメンバーとして、サンセイランディックの事業内容に触れる前は、「底地は難しい」「底地は難しそう」という感覚もあって、自分たちが相談にのれるとは考えていませんでした。
そもそも「底地」と「借地権」ってどんな不動産ですか?

村木
「底地」は「土地を持つ権利」、借地権は「建物を所有する目的を持って土地を使う権利」です。駐車場やマンションの一室、戸建てなどの不動産と違い、不動産業者であっても対応する機会が多くないこともあり、仮にクライアントである地主さんから相談されても、明確に答えられないこともあるようです。

伊部
その通りです(笑)

村木
このような状況から、底地専門の不動産会社として活躍の機会をいただいており、「今までどこに相談すればよいかわからなかった」「いままでこんな話、聞いたことがなかった」と喜んでいただいています。

伊部
底地は、賃貸物件の賃料と比べると面積当たりの収益性に大きな違いありますね。 地主さんから「地代が安い」というお悩みはよく聞きます。

村木
そうですね。例えば、賃貸物件だと1坪の家賃が1万円の地域でも、底地となるとせいぜい1坪の地代が1千円前後と、賃貸物件と比べて10分の1程度のケースもあります。 逆にいうと、賃貸の場合はアパートやマンション、ビルを建築する費用や、メンテナンスなどのコストや手間が必要になり、それらが地主さんの負担となりますが、底地の場合は借地権者さんが自分で家を建てて、建物や敷地の管理も行うため、コストや手間の負担が少ない。

伊部
底地は手間やリスクが少ない分収益性は低いという構図ですね。

村木
そうです。

伊部
村木さんと直接お話しするようになってからは、底地のお話を避けることなく、むしろ積極的に取り組めるようになってきましたが、実は、地主さんご自身もよく分かっていないことが分かってきました。

村木
それは、底地の地主さんあるあるです(笑)

伊部
賃貸物件では、古くても先代が建てた建物なので、修繕の際に建築図面が残っていないなどの問題はたまにありますが、状況が全く分からないということはほぼありません。でも、底地となると先々代から貸しているということも珍しくなくて、今の代の大家さんは状況も良く分からず、契約書すらないなんてこともあって、驚いたことを覚えています。

村木
口約束も珍しくない一方で、とても古い借地契約をみることもあります。どうやら、もともと土地があるから、建物を立てて住んでいいよ…というところから始まったのではないかと思います。当時は、地域を取りまとめる人がいて、集金して地主さんにまとめてもっていくような仕組みもあったようです。

伊部
寄合という感じの世界、町内会の前身ですね。

村木
もともとご近所づきあいのような形で始まった貸し借りでもあるようで、いちいち書面にするのがふさわしくない点もあり、口約束で済ませてしまっていたのではないかと思います。書面となると他人行儀な感じがしますよね。しかし、その慣習のまま、地域の交流が少なくなってしまい、今では、土地を貸しているけれど、誰に貸しているか分からなくなっているケースもあります。

伊部
誰に貸しているか分からないとは!
賃貸物件の更新は2年毎が基本ですから、それはほぼありえません。しかし、借地の場合は木造の場合20年毎、堅固は30年毎ですから地主さんも借地権者さんも代替わりして分からなくなっちゃうのでしょうね。

村木
すこし大げさですが、そのようなケースが多くなってきているように感じます。
例えば借地権者さんをサンセイ太郎さんとします。

地主さんは、その土地をサンセイ太郎さんに貸す契約をした、そして相続が発生しその息子のサンセイ次郎さんが借地権者さんとなった。一見すると問題はなさそうに思いますよね。でも借主がかわっているので、本来であれば、地主さんは、サンセイ次郎さんに貸しているという認識を持つ必要があるはず。

しかし地主さんの中には、地代が入金されているかは気にするけれど、誰に貸しているかは気にされない方が多いと感じています。時間がたつと誰に貸しているのか、借地権者さんは誰なのかわからなくなってしまう可能性がありますよね。最悪な場合ですと地代の滞納発生時や建物朽廃による解体請求をしたいけれど、誰に連絡したらよいかわからないという事案も起こってしまうと思います。

伊部
入金されていれば他のことは気にせず、振込元の名前がいつの間にかサンセイ次郎さんに変わっていても気づかないかもしれませんね。

村木
もともとはご近所づきあいですから、地主さん側はサンセイ太郎さんに貸しているというよりもサンセイ家に貸している感覚が強い。なので、誰に貸しているのかを明確にされることが、底地対策の第一歩だと思います。

この時代、底地はどうすればいいの!?

伊部
実際問題として底地は、どう活用すればいいのでしょうか?

村木
まずは問題点の把握ですね。底地は使う権利を借地権者さんが持っていますので、「土地を持っているのに使えない」というのが一番わかりやすい問題点です。また1つの不動産を2人の権利者が所有しているので、様々な問題が発生する可能性が高いゆえ、物件の市場価値も低くなりがちです。契約期間が最低でも20年ですので、先が読めないという不安もあるかもしれませんね。
底地は、そのような問題が介在していますので、現金などの資産に代えることも考えていただくことをお勧めします。

当社は、そのような不動産をお譲りいただき、分かれている権利を時間や手間をかけてひとつにすることによって、不動産本来の価値を取り戻す事業です。ですから、サンセイランディックの社員である私は「すぐに譲ってください!!」というのが本音(笑)

しかし20年間安定的に収益が入ってくるのも底地の魅力です。そのため、そのまま所有され貸し続けるのも間違いではないと私は思います。ただ底地も相続財産の一つですので、場合によっては相続税が発生しますので、納税資金の確保は最低条件です。

底地というのは、先祖代々引き継がれてきたからこそ、簡単には手放すことが出来ないという強い想いもある不動産です。そのため、次世代に残されることを考えているのであれば、納税資金の確保とともに管理状況の適正化も重要です。

伊部
契約書を作成したり、管理表を作成したりということが必要ですね。

村木
借地権者さんを特定したり、測量して契約面積を確定したりする必要がある場合も多いですね。あと、契約書がないのであれば契約書は作成されたほうがよいでしょうし、古い契約書しかないのであれば、現在の状況に合わせた内容の契約書を締結されたほうがよいと思います。また口約束があるのであれば書面化しておくことも重要です。しかしこれが案外難しい……「今まで契約書がなくても困らなかったのに契約書を結ぶなんて」と借地権者さんも身構えてしまわれることも多く、思っている以上に難しい……。

伊部
昔は、大家さんにお歳暮を……というようなご近所づきあいとして当たり前だったので、地主さんと借地権者さんも顔見知りで相手の様子も少しは分かるし、お互い様という感覚もあったので、お願いごともすんなりいったのでしょうね。今はそうはいかないことも多いのでしょうか?

村木
そもそも、親御さんが亡くなるまで、自宅の場所が借地だったことを知らないという子供世代の方もいるくらいなので、人間関係がほぼないところから話をスタートする前提で考えなければいけません。

伊部
それは悩ましいですね。

村木
だからといって、そのまま手をこまねいていると、地主さんも借地権者さんもご高齢になっていくわけですし、意思能力の状況によっては契約ごとが一切できなくなってしまうなんてリスクさえもあります。

伊部
高齢化は賃貸業界でも課題です。

村木
実は、市販されている借地契約書のひな形には「緊急連絡先」の欄がありません。

伊部
昔みたいに、長男が家を継いで、長女が隣町にいて、次男は……という、いざという時に連絡がすぐにとれることが前提のままになっている。ということでしょうか?

村木
そうなんです。ですから、まずは不動産業界のみならずの日本の社会問題ともいえる高齢化を背景に「緊急連絡先だけは教えておいて欲しい」とアプローチすることから始めるのもいいと思います。

伊部
建物の賃貸借契約では、「緊急連絡先」を伺うのは当たり前ですから、それは借地権者さんも抵抗感が少ないかもしれません!

賃料値上げを阻む「地主さんはお金持ち!?」という感覚

伊部
賃貸の現場の話ですが、入居者に更新の際に家賃交渉すると「大家さんはお金持ちなんだから家賃なんかを上げなくてもいいのに…」といわれることがよくあります。

村木
それは、底地も似ているかもしれません(笑)
世の中では、地主さんは、高級品を身につけて、高級外車に乗って……というイメージがあるようですが、実は違います。先祖代々引き継いできた土地を守るためにはと、電卓片手に日々帳簿とにらめっこされている姿が本当の地主さんの姿です。

伊部
新しく建物を建てれば恐らく借入金がありますし、維持管理や修繕の積み立て…と家賃が全て大家さんのポケットに入るわけではないことがなかなかイメージしていただけません。

村木
でも、まだ建物があるほうが理解してもらいやすいかもしれませんよ。
底地の場合は、当然固定資産税や都市計画税がかかりますが、目に見えないので、
土地を持っていて地代ももらえて「地主さんはいいな」なんて思われている借地権者さんもいらっしゃるかもしれません。

実際問題として、土地価格の上昇で、地代よりも税金が高くなってしまっているケースもあります。

伊部
なるほど。

村木
地代相場は、住宅地で固定資産税の3~5倍、商業地で5~8倍といわれますが、これは法律で決まっているわけではなく、慣習やこれまでの判例からの目安。地代の値上げ交渉をしようにも法的根拠もなければ、周辺事例もなければ相場も分からなくて、さらに、借地権者さんからはお金に余裕があると思われているから値上げもままならない。

伊部
底地をとりまく状況や、地主さんのお悩みの深さがよく分かります。

後編では、地主さんからのよくあるご質問や課題、そしてその具体的な解決方法や対処方法について、お聞きしたいと思います。

株式会社サンセイランディック 村木彩
株式会社ハウスメイトマネジメント 伊部尚子

~ 後編に続く ~

※前後編の2回にわけてお届けしています。後編は、地主さんの視点での
【底地を活用するための疑問&質問と解決策】をお送りします。