対談インタビュー

認知症も怖くない!? ~万全な資産相続の方法

不動産活用ネットワークは、不動産オーナー様が直面している課題に対して最短最適な解決策を提供するため、企業の垣根を越えて協力し合うことを目的とした不動産業のプロ集団です。 この『対談』では、毎回テーマを決めて、日々オーナー様から寄せられる「お悩み」や「お困りごと」に対し、【専門家による多角的な視点での解決策】をお伝えしていきます。

まだまだ元気と思いながらも、いざ将来のことを考えてみると収益不動産の相続について「どうすればよいのか?」と悩まれているビルやマンションオーナーは多いのではないでしょうか。今回は、税理士法人で事業承継や相続を含む税務の専門家として多種多様な事案に触れ、解決に導いているあいわ税理士法人の齊藤健浩と、管理会社の立場で不動産オーナーから相続に関する相談や課題に日々向きあっている株式会社ハウスメイトマネジメントの伊部尚子と小野寺達哉、そして今回はゲストに司法書士法人松野下事務所で家族信託・相続に関する専門家として活躍されている中島寛之氏をお招きして対談いたしました。

前編は、【高齢化する社会で収益不動産を安全安心に相続する方法!?】をテーマにお届けしました。まだ、前編をご覧になっていない方は ⇒ コチラ

内 容

▼相続対策を始めるタイミングと必要な期間は?
 -平均寿命と健康寿命
 -相続対策は3ヶ月から1年かけて準備をする
 -総資産の把握と開示

▼家族信託と金融機関との関係
 -家族信託で修繕や建替え計画はどうなる?

▼資産管理会社と税務上の落とし穴
 -法人化のメリットとデメリット
 -餅は餅屋に任せる

▼相続において重要なのは専門家との信頼関係
 -相続対策の本当のスタートとゴール

※ハ:ハウスメイトマネジメント| 税:あいわ税理士法人|司:司法書士法人松野下事務所

相続対策を始めるタイミングと必要な期間は?

伊部/ハ
伊部/ハ
前編では、家族信託と任意後見制度の違いと選ぶ際のポイントなどについて伺いました。後編では、超高齢化社会で認知症が問題になるなかで、不動産オーナーとして資産を引き継いでいくために具体的に「どうすればよいのか?」という対策について掘り下げていきたいと思います。まず、相続対策を始めるタイミングについては如何でしょうか?
中島/司
中島/司
相続対策というとお年を召してからのイメージがありますが、不幸にも若くして事故で亡くなってしまう可能性もあるので、「気になったらスグに!」が、その答えです。
伊部/ハ
伊部/ハ
年齢ではないということですね。
中島/司
中島/司
人生100年時代といわれて、よく平均寿命が男女ともに80歳を超え、女性は90代に迫るという勢いです。ですが、年齢を基準に考えていると相続について考えるタイミングが遅れてしまうことになります。
小野寺/ハ
小野寺/ハ
実態としては、ご病気になったり、最近ご体調がすぐれなかったりという不調がキッカケとなってご検討を始める方が多いと思いますが、認知症が思いのほか早く進行してまったり、検討期間中にお亡くなりになってしまったりするケースもありました。
中島/司
中島/司
現実的には、お元気なうちに相続について検討を始める方は少ないと思います。ですが、相続対策において平均寿命は意味をなしません。「健康寿命」で考えることが大切です。
伊部/ハ
伊部/ハ
検討が遅れてしまう背景には縁起が悪いというような考え方もあるかもしれませんが、とにかく気力や体力が充分で日常生活ができている時に始めることが大事ということですね。
中島/司
中島/司
はい。健康寿命は男女で多少の差がありますが70代前半。遅くともその少し前には始めていただきたいと思います。
伊部/ハ
伊部/ハ
家族信託や任意後見制度を利用するとして、検討から契約完了までにどれくらいの期間がかかると考えればよいでしょうか?
中島/司
中島/司
家族構成、財産状況や契約内容によって異なりますが、家族信託の場合は信託契約書の案文の内容が固まってから3ヶ月ほどかかっています。任意後見契約はそこまでかからないケースが多いかと思いますが、検討を含めて1年を目途にお考えいただければよいと思います。
伊部/ハ
伊部/ハ
やはり、相続内容の検討にはじっくりと時間をかける必要がありますね。
中島/司
中島/司
待ったなしの状況で急ぐ場合は、3ヵ月くらいで家族信託を組成したこともありますが、これはあくまで緊急対応です。
資産の承継、要するに「どなたに何をどれくらい相続させるのか?」についての意思決定に時間がかかることは、どのご家族でも普通ですし、そこに時間をかけることはとても重要だと思います。
伊部/ハ
伊部/ハ
具体的には、どのように進んでいくのでしょうか?
中島/司
中島/司
まず、お問合せがありましたら、総資産の開示を前提に、ご状況やご希望などをヒアリングして情報を整理していきます。その後、家族会議を開いていただいて、私どもも同席のもとでお話しを進めていきます。
小野寺/ハ
小野寺/ハ
家族会議に同席されていて、揉めてしまうようなことはありませんか?
中島/司
中島/司
資産の承継先を決めるだけではなく、依頼主の思いを共有することが中心ですし、「ご家族の完全合意」が到達目標ですので揉めたことはありませんね。

伊部/ハ
伊部/ハ
家族会議にも参加されるのはすごいですね。ご家族の悩みを解決するにはコレですよという完全にオーダーメイドの世界だと感じました。
中島/司
中島/司
家族会議への参加もこの仕事における大切な部分だと思います。 家族会議では、収益物件以外にも現金や株式、生命保険にいたるまで全て開示していただきます。そのうえで情報を精査し選択肢を考え、最適解を導きだしていきます。実は、お話しを進めていく過程で、オーナーの生命保険の受取人に記載されている奥様がすでに認知症になられていることが判明するようなことも多々あります。
伊部/ハ
伊部/ハ
なんの相続対策ができていない状態で、認知症の方に資産を引き継いでしまったら、もうその時点で動かせなくなってしまいます。
中島/司
中島/司
その通りです。
伊部/ハ
伊部/ハ
ほかにも、例えば引き継ごうと決めたお子さんがご両親よりも先に亡くなってしまうようなこともありえます。そういった場合、順列組合せ的に場合分けの種類が増えていって契約書が分厚くなってしまうような事態になると思いますが、どのようにされていますか?
中島/司
中島/司
イレギュラーを含めて色々な可能性をお話しして、それぞれの思いを叶えるためには、全てを盛り込んでいく必要があると考えています。
伊部/ハ
伊部/ハ
とにかく、早く始めることと、想定できることは、思いを実現するためにも全て盛り込んでおくべきということと理解しました。

家族信託と金融機関との関係

伊部/ハ
伊部/ハ
すでに金融機関からの借入があったり、修繕や建替えを計画して融資の検討を進めたりしているオーナーもいらっしゃいます。そういった場合は、どのようにお話しを進めればよいでしょうか?
中島/司
中島/司
既存の借入がある場合、家族信託をすると担保不動産の名義変更登記をします。所有者が変更になる場合は金融機関の事前の承諾が必要になる条項が金銭消費貸借契約書に含まれていることがほとんどですから、融資の場合も含めてお取引銀行などの金融機関に「家族信託に対応していただけるのか」という確認をひとつひとつしています。
小野寺/ハ
小野寺/ハ
経験上、そもそも家族信託について前向きとはいえない金融機関もありましたし、融資を引き受けてくれない場合もありますよね。
中島/司
中島/司
はい。でもそれは、金融機関も含めて世間一般に家族信託が浸透していないことも前向きに感じられなかった遠因だと思います。また、家族信託していても、家族信託していなくても融資審査はありますので、家族信託したから融資が受けられるとは限りません。また、金融機関に状況を説明したうえで借入の継続や融資を断られた場合は、別の金融機関での借り換えや借り入れをご提案していきます。ただ、特に将来的に融資を検討している場合については、どちらの金融機関でも同様ですが「指針変更」の可能性は考慮に入れておいていただいたほうがよいと思います。
伊部/ハ
伊部/ハ
一旦引き受けてくれるというお話しになったとしても、その時の社会情勢などで破談の可能性があるということを覚悟しておく必要がある。
中島/司
中島/司
金融機関側の事情もあるので、その時になってみないとわからないということはご了承いただいています。

資産管理会社と税務上の落とし穴

伊部/ハ
伊部/ハ
お父上からお子さんへと資産を引き継ぐような前提でお話しを伺ってきましたが、資産管理会社を立ち上げて運営をされている方もいらっしゃいます。
中島/司
中島/司
こちらの物件は長男へ、あちらは次男へというように相続したい先が決まっていても、実は両方の物件とも資産管理法人で運営していることがあります。その場合は、物件のその法人の株式も信託に含めるなどの考慮をしておく必要があります。
伊部/ハ
伊部/ハ
不動産の相続先だけではなく、法人自体の相続をどうするかを考えなくてはいけませんね。
中島/司
中島/司
不動産の所有者が個人だと、相続が発生した場合、不動産の名義変更を行うために相続人を特定するための戸籍謄本等を取得して、法務局での相続登記手続きが必要になりますが、法人の場合は、それらが不要。不動産を所有する資産管理会社の株式の名義変更や法人登記の変更をするだけで済むので登記の手間も費用も軽減できるメリットがあります。
伊部/ハ
伊部/ハ
一定規模の資産があることが前提ですが、法人であれば費用も手間も削減できる可能性が高い。
齊藤/税
齊藤/税
税理士の視点から申し上げると、資産管理会社で運用した場合、家賃収入を原資として運営にかかわるお子様に給与を支給するなどして、親世代の個人資産の増加を抑制することが可能になります。これにより毎年の所得税も圧縮しながら、相続税も軽減することができます。どちらも累進課税ですから、所得や財産額が増えれば増えるほど税金も高くなってしまいます。これは結構大きなメリットです。
ただ、当然ながらデメリットもあって、個人であれば受けられた相続税の特例措置が使えなくなってしまうというリスクもあるので注意が必要です。
小野寺/ハ
小野寺/ハ
ご自宅は個人、収益物件は法人でと切り分けて管理されている方もいらっしゃいます。
齊藤/税
齊藤/税
それは恐らくしっかりと計画を立てられて運用をされていらっしゃる方だと思いますが、相続税の特例などを考慮せずに無計画に法人化したりすると普通に税金を払うよりかえってコストがかかる危険性があります。
中島/司
中島/司
相続の世界も「餅は餅屋」です。齊藤さんのように相続にも詳しい税理士、私どものような司法書士などの各分野における専門家のアドバイスを受け、多角的に考える必要があります。
ちなみに、最近は非営利目的の一般社団法人を設立して家族信託を組成するケースが増えています。
伊部/ハ
伊部/ハ
一般社団法人を家族信託の受託法人にするということでしょうか?
中島/司
中島/司
その通りです。オーナーご本人もご家族も社員と理事になって一般社団法人を設立して、一緒に管理をしていきます。するとオーナーに万が一のことがあっても、他の理事がそのまま管理を引き継げるようになります。
伊部/ハ
伊部/ハ
株式会社にせよ一般社団法人にせよ手間とお金をかけて法人で運用してきたのに、個人のほうがよかったでは目も当てられませんから、やはりプロに相談するのが得策ですね。
中島/司
中島/司
はい。
齊藤/税
齊藤/税
税理士の立場としていくつかお伝えしておきたいことがあります。
多くの方が、家族信託でお話しがほぼ固まった最終段階で税務についての相談を始められます。ですが、信託した財産としていない財産とでは損益通算が出来ないというような「税金の落とし穴」もありますので、税務面についても早い段階での検討をしていただきたいと思います。
また、オーナーのご一族で家業をなさっている場合、事業承継税制の利用をお考えの方もいらっしゃると思います。ですが、認知症対策として株式を信託してしまうと事業承継税制の対象外となってしまいますので、抜け落ちが無いように依頼者から慎重に情報を引き出す必要があります。
ほかにも、いわゆる一代飛ばしをしてお孫さんに相続したら、借入の債務控除ができないなどの事態が発生してしまうなんてこともありえます。
伊部/ハ
伊部/ハ
思いもよらない落とし穴がある!?

中島/司
中島/司
そうした落とし穴に落ちないようにするのが、専門家の役目ですね。

相続において重要なのは専門家との信頼関係

伊部/ハ
伊部/ハ
最後に、相続に関するお話しを進めていくうえでの注意点について、お伺いしていきたいと思います。
小野寺/ハ
小野寺/ハ
実は、管理会社として家族信託や任意後見制度の相談にのっていると、「内容はわかったから、あとはそちらで決めて」といわれてしまうことが結構あります(笑)
中島/司
中島/司
それは信頼されている証拠でもありますね(笑)
伊部/ハ
伊部/ハ
管理会社の担当者は、お邪魔するたびにお茶をご馳走になりながら、お子さんのご結婚やお孫さんのご入学などのお話しまで伺うという関係性にもなりますので、必然的に家族構成や関係性まで知ってしまうことになります。
信頼いただけることはとても嬉しいことですが、リフォームや入居審査へのアドバイスならまだしも、さすがに相続となると話の次元が違うというか、荷が重すぎて安易にお答えできません。
一同
一同
(笑)
中島/司
中島/司
一般的には、そこまで深い情報を知ることも信頼関係を築くこともなかなか難しいといわざるをえません。オーナーにとっては、そこまで信頼できる相談相手がいるということは、相続を成功させる意味でもとても大きな価値があると感じます。
小野寺/ハ
小野寺/ハ
確かに管理会社に依頼をしていないオーナーは、まず信頼できる相談相手を探して、理解を深めていきつつ関係を構築する必要がありますね。
中島/司
中島/司
そうです。まず、先ほど申し上げた通り全ての財産をつまびらかにしていただきます。そして、ご家族のことやご自分が亡くなった後の一族の将来のことをまで話しをしていくわけですから信頼関係の構築は大前提になります。
伊部/ハ
伊部/ハ
毎年、所得税の申告や法人の決算をお願いしている税理士の方がいるから大丈夫だとお考えのオーナーも多くいらっしゃいます。
齊藤/税
齊藤/税
今、お願いしている税理士が相続に詳しい場合は、そのまま依頼をすればよいと思います。けれども、税理士は専門に特化する傾向がありますので、申告や決算と相続とでは別分野と考えていただいたほうがよいとお伝えするべきかもしれません。今お願いしている税理士が相続を専門外とする場合は詳しい方を紹介してもらうか、別にご自身で探す必要があります。
中島/司
中島/司
あと、注意しなくてはいけないのは、実際に相続が発生した後のフォローが充実しているかという点です。任意後見の契約を結ぶことや家族信託を組成することはゴールともいえますが、スタートの準備が整ったにすぎません。
組成してからが本当のスタートであり、資産をしっかりと無駄を発生させることなく引き継ぐことがゴールです。

伊部/ハ
伊部/ハ
確かに相続対策がゴールだと思ってしまいがちですね。
中島/司
中島/司
相続発生後には、公的機関や保険会社への申請や手続き、借り入れをしている場合は金融機関との折衝などが必要になってきます。多くの方には初めてのことだらけですから、右も左もわからなくて当然です。
伊部/ハ
伊部/ハ
そこをフォローしてくれる体制が整っているかが確かに大事ですね。
中島/司
中島/司
相続発生前に財産を承継するための計画をたて、資産やご家族の状況変化にあわせて見直しを図る。そして、相続発生後には、その計画に基づいて確実に資産承継が行われるように支援をするまでが相続の専門家としての仕事です。
伊部/ハ
伊部/ハ
確かに備えることばかりに気を取られて、いざ実施となったときに「それをどうやるのか?」「できるのか?」という視点は忘れがちです。本日はありがとうございました。
小野寺/ハ
小野寺/ハ
とても参考になりました。これを機会に色々とご相談させていただきたいと思います。
齊藤/税
齊藤/税
合同での社内勉強会やオーナー向けのセミナーなども企画していきたいですね。
伊部/ハ
伊部/ハ
それとてもよいですね!
中島/司
中島/司
是非、よろしくお願いいたします。
こちらこそ、ありがとうございました。

《終了》

あいわ税理士法人 齊藤健浩
司法書士法人松野下事務所 中島寛之様
株式会社ハウスメイトマネジメント 伊部尚子 小野寺達哉

前編では、【高齢化する社会で収益不動産を安全安心に相続する方法!?】をテーマに対談していいます。