不動産活用ネットワークは、不動産オーナー様が直面している課題に対して最短最適な解決策を提供するため、企業の垣根を越えて協力し合うことを目的とした不動産業のプロ集団です。 この『対談』では、毎回テーマを決めて、日々オーナー様から寄せられる「お悩み」や「お困りごと」に対し、【専門家による多角的な視点での解決策】をお伝えしていきます。
まだまだ元気と思いながらも、いざ将来のことを考えてみると収益不動産の相続について「どうすればよいのか?」と悩まれているビルやマンションオーナーは多いのではないでしょうか。今回は、税理士法人で事業承継や相続を含む税務の専門家として多種多様な事案に触れ、解決に導いているあいわ税理士法人の齊藤健浩と、管理会社の立場で不動産オーナーから相続に関する相談や課題に日々向きあっている株式会社ハウスメイトマネジメントの伊部尚子と小野寺達哉、そして今回はゲストに司法書士法人松野下事務所で家族信託・相続に関する専門家として活躍されている中島寛之氏をお招きして対談いたしました。
※ハ:ハウスメイトマネジメント| 税:あいわ税理士法人|司:司法書士法人松野下事務所
進む高齢化 ~「家族信託」と「任意後見人制度」どちらを選ぶべき!?
伊部/ハ
今回は、アパートマンションなど収益不動産をお持ちの大家さんや地主さんの相続における「家族信託」や「任意後見人制度」を中心に、お話しをしていきたいと思います。
齊藤/税
相続についてより深堀りするために、当社のパートナー企業『司法書士法人松野下事務所』で、家族信託や相続の専門家として活躍されている中島寛之さんをゲストにお招きしました。
伊部/ハ
こちらこそ、よろしくお願いいたします。弊社からも数多くの相続実務に関わってきた小野寺が参加させていただきます。
伊部/ハ
では、早速はじめさせていただきます。お陰様で弊社は創業48年を迎えました。その年月に伴ってお客様である大家さんも年を重ねられてきたこともあり、実際の相続発生や関連する相談が増加してきました。
小野寺/ハ
そして、それらに対応するための相続に関する専門部署として4年前に「コンサルティング営業室」が立ち上げられたという経緯があります。
中島/司
当事務所も創業から約40年経っています。相続にまつわる業務としては、相続登記や成年後見などを行ってきました。
ただ、相続発生後や認知症になってしまってからのご相談では出来ることが限られてしまうこと。そして、何の手立てもせずにそれらが発生してしまうと、所有者がせっかく築いてこられた財産を上手く引き継げないリスクがあり、当社自身の仕事もなくなってしまう可能性がある。そして、もっというと日本経済の停滞をも招いてしまうというようなことまで考え、超高齢社会の諸問題を解決する専門家集団となるべく松野下グループを立ち上げ、グループ内にファイナンシャルプランナーを入れ、シニア向けの相談窓口として「シニア資産パートナーズ」を設けて、ご依頼主にとって本当の意味での支援をすべく相続に関するコンサルティング業務を開始しました。
小野寺/ハ
相続はオーナー側だけの問題ではなく、大家さんが認知症になって修繕が進まない事態など考えると入居者の生活にも関わってくるという側面もあります。
齊藤/税
ますます、高齢化社会が進んでいくわけですから、日本全体の課題としてとらえるべきですね。
中島/司
同感です。
まず、家族信託ですが、2006年の信託法改正を経て、翌年から施行された制度です。わかりやすくいうと「財産管理の方法」の選択肢がひとつ増えたわけですが、高齢化が進むなかで認知症リスクの増大とともに注目されることになりました。
中島/司
任意後見は、成年後見制度のひとつで、認知症などで判断能力が不十分となった人を支援する仕組みです。ほかにも「法定後見」があります。
法定後見は、ご本人の判断能力が既に低下してから親族等が家庭裁判所に申し立てることによって後見人が選ばれ開始します。一方、任意後見は、ご本人の判断能力が十分なうちに財産管理を任せる人を決めておくという違いがあります。
家族信託と同様、どちらもその目的は財産管理であり「ご本人の財産を守る」ことにあります。
家族信託と任意後見制度との違い
伊部/ハ
家族信託と任意後見との制度的な違いについて教えてください。
中島/司
まず、裁判所による監督の有無と、積極的な財産管理ができるか否かという違いがあげられます。
伊部/ハ
家族信託は、裁判所の監督がなくて、積極的な財産運用が可能。
中島/司
はい。
あとは、カバーできる範囲の違いもあります。任意後見の場合は、介護施設への入所など、ご本人が安心して暮らせるようにする、いわゆる「身上監護権」があります。一方、家族信託は、あくまでも財産の管理や承継に関する行為に限定されます。
伊部/ハ
でも、ご本人の判断能力が低下したときにご家族が入所を決めるのは当たり前といえば当たり前のことなので、家族信託でも問題はないと考えてよいでしょうか?
中島/司
そうですね。法的には「第三者契約」といって、ご家族が施設との契約者になることも可能な仕組みもあるので問題はないと思います。 また、任意後見制度というと、弁護士や司法書士などの士業系の方にお願いするイメージがありますが、ご家族でも後見人になることが可能です。
伊部/ハ
ご家族が後見人になれば、制度のなかで施設への入所の判断なども可能になるということですね。
中島/司
理屈のうえではそうなりますが、後見人になると家庭裁判所や任意後見監督人への報告などの負担が発生しますので、そこはやはりプロに任せることをお勧めします。ただ、これは任意後見の弱点ではあるのですが、お任せしようと決めた専門家が、事故などで亡くなってしまうと任意後見が実行できなくなってしまうリスクがあります。
家族信託の場合は、受託者(管理する人)に、万が一のことがあった場合でも次の受託者を信託契約書で決めておけるので、次の受託者が信託財産の管理を継続することが可能です。
家族信託と任意後見制度のどちらを選べば!? ~その選択のポイントとは!?
伊部/ハ
家族信託と任意後見制度の違いについてお話しいただきましたが、どちらを選ぶべきかという判断基準やポイントを教えてください。
中島/司
まず、そもそも論ですが身寄りがない、または離れて暮らしていたり縁遠くなってしまっていたりする場合、万が一の時に入院や施設入所などもままならなくなってしまうため、ほぼ任意後見といっていいと思います。
あとは、両者の違いのところでお伝えした通り財産の積極運用を望むか否かが判断の分かれ目になります。任意後見の場合、財産の現状維持が原則ですから、株式投資や不動産活用などを希望する場合、家族信託を選ぶことになります。 ほかには、元気なうちは自分でやって、認知症になってしまったら財産管理を任せたいという場合、任意後見を選ぶのがより適しています。
齊藤/税
認知症が発生してから家族信託の契約が有効になるような条項を追加している場合もあると思いますが。
中島/司
制度上、信託契約の始期を設定することは可能で、実際にそのようにされている事例はあるようです。ですが、実は認知症の発生の有無を誰が、どのような方法で判断するのかが曖昧になってしまうなどの問題があります。ですので、家族信託の場合は契約時から受託者に財産管理を任せることを私どもはお勧めしています。
小野寺/ハ
相続相談の現場にいる身として日々感じるのは、将来のことをご心配されながらも、なかなかご家族に引き継ぎたがらない方が多いという現実です。
中島/司
実際、家族信託の話が進んでいくと「自分では何もできなくなる…」とオーナーであるお父上の元気がなくなってしまう場面に遭遇することがあります。これまで、心血を注いで守り育ててきた資産が手から離れていく方向のお話しですから当然といえば当然のご心情だと思います。
中島/司
家族信託や任意後見で資産を上手く引き継げるとしても、その準備過程でこれまで頑張ってこられたオーナーをはじめ、ご家族の幸福感が下がってしまっては本末転倒です。
小野寺/ハ
私どもは、管理会社として普段からオーナーとそのご家族に関わらせていただいている関係性がありながらも、お話しの進め方は本当に難しいと感じています。
中島/司
さらに、時代とともに結婚というものへの考え方の変化や離婚率が高くなったことの影響などもあり、家族という概念もその実態も複雑化しています。これが、昨今の相続や資産承継を難しくしているという側面があります。
伊部/ハ
これは複雑なケースではありませんが、ご長男にはお子さんがいて、次男さんのところにはいらっしゃらないというような事例がありました。
中島/司
ご次男に相続しても、後を継ぐ子ども世代がいないというケースですね。この場合、相続後にこの次男の方が亡くなるとその奥様が多くを相続することになります。そして、その奥様がなくなるとそちらのご親族、例えば奥様の兄弟姉妹や甥っ子姪っ子にあたる方が相続することになります。
伊部/ハ
いわゆるお嫁さんが相続することは理解や納得ができるとしても、そのご兄弟姉妹やそのお子さんとなると結婚式で一度会ったかどうかという可能性もあります。もちろん、奥様方のご親族とも頻繁に行き来するような関係性であれば問題にはなりませんが、そうでなければ、自然な感情としても引き継ぐことに違和感がでてきてしまうかもしれません。
中島/司
そのようなケースには、家族信託の「受益者連続型信託」という仕組みが有効です。今回の例でいうと、次男が亡くなられたあと資産を引き継いだ奥様が亡くなられたら、ご長男のお子さんへと承継するという指定が可能になります。
中島/司
その通りです。遺言で相続された資産を誰に渡すかを決めるのは、相続した本人しか決められないゆえ2代先の相続は認められていません。
伊部/ハ
任意後見との違いであり、家族信託の特徴といえますね。
中島/司
あと、判断のポイントとしては財産管理を裁判所の関与のもとで行うか否かという違いがあります。公的機関による監督がなされるということは根拠のある判断がなされて公平性などが保たれる反面、手続きの煩雑さや自由度が下がるというデメリットがあるということをお伝えしておきたいと思います。
中島/司
初期費用は家族信託のほうが高くなるとお考えいただいてよいと思いますが、ランニングコストの有無が判断の分かれ目になるかもしれません。家族信託の場合は、基本的にゼロ円ですが、任意後見を選択した場合はほぼ報酬の支払いが伴ってきます。しかもこれは被後見人が亡くなるまで続きますので、その間にずっと費用がかかり続けることになります。人生100年時代、長生きすることは喜ばしいことながらコスト面からはデメリットになるといわざるをえません。
家族信託と任意後見制度との併用の検討も!?
伊部/ハ
家族信託と任意後見制度のどちらを選べばよいかについて伺ってきましたが、どちらか一方に決めてしまうのではなく、併用することも視野に検討を進めたほうがよいでしょうか?
中島/司
制度的には併用可能ですので、そのほうがよいと思います。例えば、柔軟な資産運用をするために家族信託を選びつつ、いざという時の施設入所に備えて任意後見で身上監護できる状態を確保していく。
中島/司
家族信託の受託者と任意後見の後見人を同じ方がなさるのは避けたほうがよいと思います。 例えば、家族信託によりお父様の資産を息子さんが管理することになったとします。その後、お父様が認知症を発症し、任意後見が始まってその息子さんが後見人となります。すると、家族信託によって管理を任されている息子さんを、後見人としての息子さんが監督するという状況が生まれてしまいます。
齊藤/税
いわゆる利益相反という状態になってしまう懸念がありますね。
伊部/ハ
ありがとうございます。 家族信託と任意後見制度の違いや検討のポイントがよくわかりました。
あいわ税理士法人 齊藤健浩
司法書士法人松野下事務所 中島寛之様
株式会社ハウスメイトマネジメント 伊部尚子 小野寺達哉
~ 後編に続く ~
※前後編の2回にわけてお届けしています。後編は、
【認知症も怖くない!? ~万全な資産相続の方法】をお送りします。