加盟社リレー寄稿Q&A

他の物件と設備は変わらないのに、なぜ私の物件だけテナントが決まらないのか?

不動産活用ネットワークは、不動産オーナーのお困りごとに対して最短最適な解決策を提供するために、企業の垣根を越えて協力し合うことを目的とした不動産業のプロ集団です 。 Q&Aコーナーではオーナー様からのお悩みと専門家による解決方法をご説明いたします。

今回のご相談

不動産オーナー
不動産オーナー
私は都内に数棟ビルやマンションを保有している不動産オーナーです。持っている物件それぞれ立地条件や物件の設備なども評価は悪くないと思っているのですが、近傍同種の物件からテナントが決まったり、競合物件との比較検討で負けてしまうことが良くあります。どこか「決め手に欠ける」のだと思いますが、その確たる原因が良く分かりません。
須田整
須田整
建物の基本的な設備としてトイレや給水、給湯設備など、その場所で生活あるいは働く場として必要な設備が備わっているのは当然のこととして、設備が備わっているだけでは、利用者に必ずしも選んでもらう物件として成立するとは限りません。  建物には見た目の劣化、所謂「物理的(経年)劣化」に加えて「機能的劣化」「社会的劣化」という概念を忘れず、日々の物件管理・運営にこの考え方を活かす必要があります。

まず、「機能的劣化」について考えましょう。

新しく建設された分譲マンションやオフィスビルには最新の設備が設置されています。特にセキュリティ設備などは昨今進化が目覚ましく、高解像度の防犯カメラ、鍵をボケットなどに入れて身に着けていれば自動で開錠出来るキーレスエントリー、オフィスビルにおいても顔認証での入退室、勤怠管理システムを採用し、代わりにセキュリティカード・社員証を廃止する企業が出てきていますし、昨今のコロナ禍の影響を受け、エレベーター押釦やトイレ水栓などの更なる非接触化なども進んでいます。これが「機能的劣化(相対的劣化)」と言われる現象であり、優れた機能を持つ設備の出現により使用できる従前の機能・設備が見劣りし、不便と感じるようになり、今までの機能や設備の評価が下がることをさします。

次に、「社会的劣化」について考えましょう。

建物は経年していきますが、それは利用者も同じことです。ライフスタイルやワークスタイルが変化することにより、建物の設備と利用する人との調和が取れなくなる現象を「社会的劣化」と定義しています。身近な所で例を挙げると、長年住んでいるマンションで子供が成長し、部屋数が足りなくなる、入居者の高齢化によりバリアフリー化のニーズが強まるものの、建物の中は依然、手摺りが少なく、段差の多い共用部が残ったまま、昨今オフィスビルや商業施設のトイレなどでは、トイレの中や隣接した場所に授乳室を設置したり、防災設備を充実させるなど、時代の流れにより、建物求められる要望も順次変化していっている訳です。

法改正もある種の劣化対応?

120年ぶりの大改正と言われた2020年度の民法大改正に続き、宅地建物取引業法(宅建業法)の改正法が2022年5月18日に施行されました。今回の法改正の経緯として、宅建業法改正の丁度1年前にデジタル改革関連法の一つである「デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律」が施行され、その一貫として宅地建物取引士の押印を廃止、次に列挙する様な各書面について、Webサイトからダウンロード、相手方の事前許可の下、メールでの配信などにより交付出来るようになりました。①媒介契約書面②重要事項(35条)書面③契約締結時(37条)書面④指定流通機構(レインズ)への登録を証する書面。このような法的な改正の動きに関しても時代の進化やライフスタイルに合わせて変化する、ある種のソフトの劣化対応といえるのではないでしょうか。

具体的な劣化対策、何から始める?

今までのお話しのなかで、建物の見た目の劣化のみならず、機能的劣化、社会的劣化や時代の進化に合わせた法改正にも目を向けるべき、という事はある程度ご理解いただけたかと思います。但し、知識として理解しても、不動産オーナーとしてどう具体の行動に移すのかが当然、最も大切です。そこでまずお勧めしたいのが、建物の中長期の修繕計画に「劣化対応予算」を割り当てることです。通常、ビルやマンションの修繕計画は、具体の工事項目の積みあがりで、年度毎、全体の予算が決まります。そこに計上された各工事の内容は、あくまで計上時に標準的と思われる設備の機能、計上当時のライフスタイル、ワークスタイルを反映したものでしかありません。未来の修繕や改修を計画するにあたり、まだ見ぬ機能や時代の進化を工事の金額に落し込むのはほぼ不可能ですが、全体予算の一定割合の金額を具体の工事項目を決めずに予算をリザーブしたり、あるいはトイレ一つを例に考えても、20年前のトイレを現在の最新設備にリニューアルするにはどれ位、金額を要するのか、こういった目線で各設備毎に「劣化対応枠」の予算組みをするのも、面白いと思います。

建物も「無常観」を大切に、変化し続けること前提で考える

日本文学の三大随筆と言えば「枕草子」、「方丈記」、そして「徒然草」があります。特に「方丈記」と「徒然草」には仏教の考えに由来する「無常観」の考え方が切々と描かれています。そもそも「無常観」とは、あらゆるものは絶えず変化し続け、少しも留まることが無いといった考え方のことです。日々の建物管理・運営などにおいても、そのような前提で考えていくと、満足している、手を加えることが無いと思っていた建物について、色々気になることがでてきたり、新しい設備や取組みに自然と目が向くようになり、自分の建物に取り入れたくなることも出てくると思います。是非、建物は常に変化、進化するものとして考え、利用者にとって魅力的な建物創りのため、我々不動産活用ネットワークも協力させていただけたらと考えております。

 

 

ABOUT ME
須田整
須田整
三井不動産グループのPM会社にて、オフィスビル、ホテル、リテールなどあらゆるアセットタイプのPM業務、売買仲介業務、賃貸仲介業務、管理受託営業業務を経験し、物件受託から運営・管理、不動産売買取引まで一連の業務の全てのフローを体得。 それ以前は、株式会社ナカノフドー建設にて、契約、物件引渡、建設業経理、建築受注営業業務等を担い、建築分野の経験・知識・知見を得る。 一部上場不動産会社にて不動産再生事業に携わった後、2016年11月AAAコンサルティング株式会社入社。新規事業開発を中心に、売買仲介、英語力を活かし海外投資家向け営業業務等も担当。建設・不動産業務の幅広い実務を経験。 2018年8月より高砂熱学工業株式会社入社、不動産事業開発部に所属し、事業用賃貸不動産、再生事業向け不動産の取得、大規模開発事業への出資及びプロジェクト参画、そして高砂熱学グループでのPM事業拡充を担う。