加盟社リレー寄稿Q&A

中古マンションの購入を検討していますが、管理状況がわからないので不安です。

不動産活用ネットワークは、不動産オーナーのお困りごとに対して最短最適な解決策を提供するために、企業の垣根を越えて協力し合うことを目的とした不動産業のプロ集団です 。 Q&Aコーナーではオーナー様からのお悩みと専門家による解決方法をご説明いたします。

今回のご相談

不動産オーナー
不動産オーナー
収益不動産として中古マンションの購入を検討しております。検討案件は立地が良いため、一定期間賃貸運用し収益を得た後、自分で住もうとも考えていますが、現在の物件の管理状況が気になります。「マンションを買うなら管理を買え」とよくいいますが、管理状況も含めた物件の良し悪しを判断する指標や基準はないものでしょうか。
須田整
須田整
地方自治体やマンション管理業協会の管理評価制度は、これから中古マンションを購入しようとされる方にとっては、活用が期待できると思います。この評価制度は、地方自治体もしくは一般社団法人マンション管理業協会が管理状態をチェックし、評価します。自治体の制度では、マンション管理の適否を、マンション管理業協会では最高位の「S」から「D」までの5段階に分けて評価し、その結果はインターネットなどで公表される予定で、購入検討時に予め管理状態について目安を知ることができれば、管理状態が良好な物件に絞って物件を検討することもできます。

マンション管理評価制度創設の背景

そもそもこのような制度が創設されたきっかけを皆さんご存知でしょうか? 直接的な理由としては、マンション管理適正化法の改正があります。2022年度施行の改正マンション管理適正化法では、マンションの老朽化を抑制、管理不備となったいわゆる「スラム化マンション」などの適正化に向けた対応が社会的に喫緊の課題となっている現状を踏まえ、国による基本方針の策定地方公共団体による計画の策定助言、指導等の制度等の創設管理水準の底上げ管理計画認定制度の5つを骨子として法律が改正されました。マンションの適正な管理のフローを整備することにより、良質なマンションストックの供給、流通の推進に寄与することを目的として制度が創設されました。

マンションの管理に関する現状と課題

我が国の人口は減少傾向にあるなかでマンションストックの数は今も右肩上がりで増加を続けています。国土交通省の資料によると、平成30年度末の時点でマンションのストック数は約654.7万戸に達し、国民の約1割がマンションに居住しているといわれています。その一方で築40年を超えるマンションは現在81.4万戸(平成30年末時点)にのぼり、令和10年末には約2.4倍の197.8万戸、令和20年末には約4.5倍の366.8万戸に急増する見込みで、このような高経年マンションでは外壁や給排水管の老朽化といった物理的な劣化に加え、区分所有者の高齢化・非居住化(空き家化)が進行し、管理組合役員の担い手不足や総会運営や集会の議決収拾が困難となるなどさまざまな問題が顕在化しています。

地方公共団体とマンション管理業協会の評価制度の違い

まず地方公共団体の評価基準は、「管理計画認定制度」と呼ばれるもので、その基準を3つのカテゴリーに分類、17項目に各自治体の独自基準を加えた内容で「適合」「不適合」いずれかの評価を下します。3つのカテゴリーとは、長期修繕計画の作成、資金計画、規約等の規定で、その3つに加え、市区独自の地域性を考慮した上乗せ基準も考慮されます。評価の有効期間は5年です。
一方マンション管理業協会の基準は、「マンション管理適正評価制度」と呼ばれるもので、その基準を5つのカテゴリーに分類、25項目に国の基準を当てはめた追加項目を数値化した上で、その合計点(100点満点)により、マンションの管理状態をS~Dランクに評価分けします。5つのカテゴリーとは、管理体制(配点20点)、組合収支会計(配点40点)、建築・設備(配点20点)、耐震診断関連(配点10点)、生活関連(配点10点)の5つで評価の有効期間は1年です。本年(2022年)4月より制度化されましたが、制度の適用を受けることは努力義務の範囲であって強制ではなく、自治体によっては、独自の制度設計がまだ未整備の自治体もあります。

制度創設間もないため、効果はまだ未知数の部分も

マンションの管理評価制度は、マンション管理水準の維持向上、市場評価、地域としての価値向上が期待できるほか、予備認定を受けた新築マンションを取得する場合は、住宅金融支援機構の「フラット35」の金利が一定期間引き下げられるメリットも用意されています。
反対に管理評価のデメリットとしては、マンション管理組合の事務負担が増大すること、評価制度の認定を受けるために多くの申請書類を整備し、申請手続きを受けなければならないことなどが考えられます。この点は、マンション管理センターによる「管理計画認定手続き支援サービス(オンラインでの申請)」を利用し、事務負担の軽減が期待できますが、より不安視されるのは制度が公表化されることへの「悪評の定着」でしょうか。最初に認定された評価が仮に悪い評価であったとしたら、後から改善の策を講じたとしても、その前に”管理の悪いマンションだ”というレッテルが貼られてしまい、一度付いた悪いイメージを払拭することが難しくなる懸念というものも考えられるかもしれません。

マンション管理評価制度への期待、活用法

今まで何の客観的な指標もなかったマンションの管理力について、その目安が示されることは画期的なことですので、積極的に活用されるように期待したいです。マンションの管理組合にとっては、評価を受けることで改善のPDCAサイクルが作られ、実施した改善策の効果確認も容易になるでしょう。高い評価が出たマンションに対して、さまざまな優遇策が与えられれば管理組合の参加意識や、そのマンションに住んでいること自体を誇りに感じて、更なるマンション管理の向上意識が自発的に生まれることも期待できます。ただし、マンション管理は一時で終わるものではなく、継続的、長期的な努力が必要になるものでもあります。長い年月のなかで、住む人が変わり、建物は古くなっていくわけですから短期・中期・長期と改善目標を立案し、着実に計画を実施していくなかで、このような評価制度が、その時々のマンション管理の道標として、効果的に活用されることが望まれます。

 

 

ABOUT ME
須田整
須田整
三井不動産グループのPM会社にて、オフィスビル、ホテル、リテールなどあらゆるアセットタイプのPM業務、売買仲介業務、賃貸仲介業務、管理受託営業業務を経験し、物件受託から運営・管理、不動産売買取引まで一連の業務の全てのフローを体得。 それ以前は、株式会社ナカノフドー建設にて、契約、物件引渡、建設業経理、建築受注営業業務等を担い、建築分野の経験・知識・知見を得る。 一部上場不動産会社にて不動産再生事業に携わった後、2016年11月AAAコンサルティング株式会社入社。新規事業開発を中心に、売買仲介、英語力を活かし海外投資家向け営業業務等も担当。建設・不動産業務の幅広い実務を経験。 2018年8月より高砂熱学工業株式会社入社、不動産事業開発部に所属し、事業用賃貸不動産、再生事業向け不動産の取得、大規模開発事業への出資及びプロジェクト参画、そして高砂熱学グループでのPM事業拡充を担う。