不動産活用ネットワークは、不動産オーナー様が直面している課題に対して最短最適な解決策を提供するため、企業の垣根を越えて協力し合うことを目的とした不動産業のプロ集団です。 この『対談』では、毎回テーマを決めて、日々オーナー様から寄せられる「お悩み」や「お困りごと」に対し、【専門家による多角的な視点での解決策】をお伝えしていきます。
不動産の世界では、様々なかたちでの高度利用が進んでいます。今回は、『アットパーキング』で月極駐車場のDXという新しい分野を切り開き、先日上場を果たした株式会社ハッチ・ワークの大竹弘と、駐車場の上部空間を空中店舗として有効活用する建物である『フィル・パーク』を展開する株式会社フィル・カンパニーの肥塚昌隆と小豆澤信也が、駐車場をテーマにこれからの「街づくり」を含めた、不動産活用の未来と在り方について対談しました。
※フィ:フィル・カンパニー| ハ:ハッチ・ワーク
駐車場の上の空間という未活用資産とコインパーキング
大竹/ハ
今回は、駐車場を切り口にして街にあるちょっとしたスキマや遊休地など、これからの時代の不動産活用についてお話ししていきたいと思います。
大竹/ハ
不動産活用ネットワークのメンバーで、株式上場を果たした第一号がフィル・カンパニーで、当社ハッチ・ワークが第二号となりました。
大竹/ハ
ありがとうございます、奇しくも2社とも駐車場関連になりましたね(笑)
2011年当時、フィル・カンパニー本社も入る『フィル・パーク飯田橋』
大竹/ハ
もう10年以上前になると思いますが、駐車場の上部の空間を利用するという発想が本当に衝撃的で、飯田橋にあった本社がとても印象に残っています。
肥塚/フィ
「フィル・パーク飯田橋」は2011年から2013年の本社ですね。
大竹/ハ
2007年からだと約14年間で258箇所。かなりのハイペースですね。
大竹/ハ
なんとなくですが、オフィスビルや商業施設が建築可能な立地というイメージがありました。
肥塚/フィ
もともとは、都心部にあるコインパーキングの上の空間がもったいないというところから始まった事業ですので、そのイメージが強いかと思います。
大竹/ハ
コインパーキングの場合、事業者が地主さんから借り上げてしまうことが多いと聞きますが。
肥塚/フィ
そうですね。都心部ですと車1台のスペースあたり月額10万円という金額を地主さんに支払っていることもあります。月額5万円というところも珍しくありません。
大竹/ハ
想像していたよりも高額ですね。当社で管理している月極駐車場の場合、当然大小はありますが、平均すると15台といった規模になります。10台だとしても毎月100万円になる。
肥塚/フィ
地主さんは、少ない初期費用でスタートできて、管理の手間もあまりかからず毎月100万円というお金が安定して入ってきます。
コインパーキングの場合、通常2~3年の一時使用貸借なのですが一般的には10年程度、もしくは10年以上契約が継続していると言われています。
大竹/ハ
確か、地主さん側の金銭の持ち出しはない仕組でしたよね?
小豆澤/フィ
はい、精算機から地面に埋め込まれているフラップ、看板まで全て業者持ちであることが多いです。
肥塚/フィ
地主さんは2~3年間コインパーキングにして資金ができたら、ビルでも建てようかなどとお考えになって始める方が多いのですが、結局そのまま……という方が多いのが実態ですね。
大竹/ハ
何もせずに毎月100万円入ってきていれば、新たにビルを建てようという気持ちには、とてもなれないですよね(笑)
肥塚/フィ
(笑)
新たなことを始めようと思った場合、毎月安定して入ってきた100万円がなくなるわけですから、いうなれば「マイナス100万円からのスタート」ということになります。
大竹/ハ
しかも、恐らく借金をしなくてはいけないわけですから、なおさらハードルが高くなる。
肥塚/フィ
そのとおりです。
ですが、『フィル・パーク』の場合は、1階のコインパーキングからの収益はそのまま。月100万円を保持した状態でテナント収入が上乗せになります。当然、建築費用は掛かりますが、コインパーキングからの安定した収益が見えているわけですから、その金額内に借り入れの返済を抑えれば、仮にテナントが1軒も入らなかったとしても赤字にはなりません。
大竹/ハ
確かにそうですね!
ちなみに、契約のキッカケはどのようなケースが多いのでしょうか?
小豆澤/フィ
コインパーキングの契約が更新されるタイミングが多いですね。
大竹/ハ
コインパーキングの運営会社にとっては、競合になるということでしょうか?
肥塚/フィ
いいえ、『フィル・パーク』になっても以前の運営会社がそのまま契約継続になることもありますし、逆に運営会社から『フィル・パーク』のコインパーキングを任せてくれないかと営業を受けているくらいです。
大竹/ハ
なるほど、むしろコインパーキング事業者にとっては、『フィル・パーク』はなんとか獲得したい場所であり、競合ではない。
肥塚/フィ
はい。 別の視点からいうと、当社では1階のコインパーキングも空中店舗と同じテナントだと考えています。これまでの事業者より良い条件で借りてくれるところがあれば、乗り換える可能性もあります。
大竹/ハ
確かに、そう考えればコインパーキングもテナントといえますね。
肥塚/フィ
2~3年以上安定的に稼いできた実績があるならやめる理由がありません。このコインパーキングによる収益を確保したまま、空中店舗のテナント料で上乗せできるのが『フィル・パーク』の強みであり、喜んでいただけている理由のひとつだと思います。
大竹/ハ
たまに、コインパーキングだったところにオフィスビルが建てられる例を見かけますが、考えてみるとゼロベースからのテナント募集で上手くいくかも未知数。地主さんにとっては、マイナス100万円からのスタートという意味がよく分かりました。
『フィル・パーク』という不動産ソリューション
大竹/ハ
『フィル・パーク』は、駐車場の上部空間を活用するというニッチであり、どこも真似しづらいビジネスだと思うのですが、やはり企画から施工まで一括で請け負っているのでしょうか?
小豆澤/フィ
はい。厳密には企画施工からテナント誘致までが我々の仕事です。最近では、車を停めるスペースがない物件もあります。
肥塚/フィ
不動産業界には、その土地の特性や地主さんの意向には関係なく、自社の商品を売り込んでしまう傾向があります。しかし、それではミスマッチが起こる可能性が高くなってしまいます。
大竹/ハ
せっかく、何かしらの賃貸物件を建てたとしても地域の特性にあっていなければ、結果的には空室になってしまう。
肥塚/フィ
ミスマッチな状況は、テナントとして入居した方、大家さんとなった地主さん、そしてその地域に暮らす方々にとっても嬉しいものではありません。
肥塚/フィ
需要があれば駐車スペースを設けます。1階の半分がテナントで半分がコインパーキングという建物もあります。その土地の最適解は何なのか、どのようにしたら街のにぎわいへとつながるのかを考えて、地主さんや入居者のみならず、地域の方にとっても喜ばれる「三方良し」を目指しています。
1階の半分が駐車場、半分が店舗の『フィル・パーク横須賀』
大竹/ハ
『フィル・パーク』の施工とテナント誘致の後、その流れで管理まで請け負うことはされないのでしょうか?
小豆澤/フィ
ご要望があって管理をしている物件が一部ありますが、地主さんが以前からお付き合いのある不動産屋さんがそのまま管理されることが多いですね。
大竹/ハ
なかなか、弱点が見つからないのですが、敢えて『フィル・パーク』の課題をあげるとしたら何かありますか?
肥塚/フィ
建築資材、職人不足による人件費の高騰の影響があるといえばあります。
大竹/ハ
不動産に関わる事業者の誰しもが直面している問題です。
肥塚/フィ
ですが、『フィル・パーク』のテナント部分はスケルトン渡しで、エアコンもトイレさえもつけていません。要するに内装工事や付帯設備がないので、マンションやアパートと比べて工事に関わる人も少なくなり、人件費や材料費などの高騰の影響も受けづらくなっています。
小豆澤/フィ
ただ、テナント誘致がどうやっても難しい地域からのお問合せは断らざるを得ませんでした。
大竹/ハ
確かに、テナント誘致をするうえでの地理的な限界はありますね。
肥塚/フィ
基本的には、人口と産業が一定の規模であれば、ある程度の地域で対応可能なのですが、その一定規模に至らず、せっかくお問合せをいただいたのにお断りすることがありました。それを大変忍びないとずっと感じていたのですが、あるビジネスモデルにいきついて、お断りすることが減りました。
プレミアムガレージハウスの誕生
大竹/ハ
『フィル・パーク』だとどうしてもお断りしていた案件でも可能になったビジネスモデルというのが?
肥塚/フィ
ガレージ付賃貸住宅の『プレミアムガレージハウス』です。
大竹/ハ
駐車場業界にいる身として、最近特にガレージ人気を感じていますが、ガレージハウスというと高級車を保管するためのものという印象が強かったと思います。
肥塚/フィ
実は、この事業はもともと高級車向けのガレージハウスを展開していた会社との提携がスタートでした。現在は子会社化していますが、コンセプトとターゲットを変化させて趣味の空間、ライフスタイルや自己の価値観を具現化する場所として訴求しています。
大竹/ハ
コロナによる生活様式の変化の影響があるようにも感じられますね。
肥塚/フィ
それはあると思います。コロナ禍で会社に通う必要がなくなって時間が生まれ、旅行や外食、買物にも行きづらくなって支出が減りました。その流れから自分に向き合う時間ができて、趣味――本当に自分がやりたいことに投資する人が増えたのではないでしょうか。
小豆澤/フィ
コロナの頃は、テレワーク拠点としての需要が多くありましたが、現在ではガレージを身体を動かすためのジムや、創作活動のためのアトリエにされている方などガレージの利用方法も車庫だけでなく多様化しています。
大竹/ハ
それならば、駅前や繁華街に近い必要はなくて、むしろ少し静かな郊外の方がよい。
肥塚/フィ
関東地方にお住いの方はイメージしやすいと思いますが、国道16号線という都心部から少し離れた場所がメディアで取り上げられたこともあります。
『プレミアムガレージハウス』ポータルサイト
肥塚/フィ
現在、全国で約550戸まで増えましたが入居待ち状態です。
小豆澤/フィ
多少の入れ替えがあるだけで95~100%稼働しています。
大竹/ハ
ただ、そうはいっても建築費用が必要になりますよね。ほぼコストが掛からず運用できる月極駐車場に関わる立場として地主さんの気持ちを考えると、少々気になります。
肥塚/フィ
例えば、ご相談いただいた場所が月極駐車場ならば、その駐車場収益から支払うことができる予算で、土地の一部にガレージハウスを建てます。そうすれば、赤字になるリスクは抑えられます。
大竹/ハ
『フィル・パーク』同様に駐車場からの収益を担保にしてプランニングする。
肥塚/フィ
しかも、アパートマンションのような共用部がなく、古くなってくるとどうしても求められる修繕や設備更新も最低限で済みます。
小豆澤/フィ
しかも、『プレミアムガレージハウス』の場合は、新しいから入居するというわけではないので、周辺部に新築物件ができると賃料を下げなくてはいけないという競争に巻き込まれることもありません。実は、最近では入替の際に賃料アップを図っています。
大竹/ハ
不動産の場合、古くなれば賃料は下がっていくのが宿命ともいえますが、それの逆をいっている。
プレミアムガレージハウスにおけるIT活用
大竹/ハ
当社でも『アキマチ®』という月極駐車場が空いたらユーザーに通知が届くようなサービスを提供しています。『プレミアムガレージハウス』も満室で空き待ちということですが、そういった管理システムがおありになるのでしょうか?
ハッチ・ワーク『アキマチ®』サービス概念図
肥塚/フィ
同じように希望物件と個人情報を登録していただいて、ご連絡がいくような仕組みになっています。
大竹/ハ
なるほど、入居者の募集はどのようにされているのですか?
肥塚/フィ
自社で運営しているポータルサイトで募集しています。実は、大手の賃貸情報サイトには掲載されていませんし、もちろん地場の不動産屋さんも情報はお持ちでないと思います。
大竹/ハ
また、あえて課題というか弱点をお聞きしたいと思います(笑)
肥塚/フィ
(笑)
あくまでもガレージですから車が出入りするスペースが必要なため、建蔽率が悪くなります。建蔽率や容積率を活かしたい方には不向きといえます。あとは1戸あたり6メートル×6メートルの広さが必要で、連棟式で建てていくのですが、どうしても地型が合わない場合があります。
連棟式で建てる『プレミアムガレージハウス』
大竹/ハ
地型的にどうしても空いてしまうスペースは、当社が借り手を募集しますので。月極駐車場にしてください(笑)
小豆澤/フィ
(笑)
『フィル・パーク』では難しかった地域からのご相談を受けられるように不動産活用の裾野が広がったのは本当に嬉しいことです。
大竹/ハ
この地域にガレージハウスが欲しい…というような情報も集められていますか?
肥塚/フィ
はい。ポータルサイトからの入居待ち登録時に空室情報を受け取りたい地域を選択していただけるようになっています。
大竹/ハ
どこに需要があるかも把握されているならば、地主さんも納得しやすい。後編では、地主さんのみならず地方自治体も含めた今後の土地活用について、お話していきたいと思います。
~ 後編に続く ~
株式会社フィル・カンパニー 肥塚昌隆・小豆澤信也
株式会社ハッチ・ワーク 大竹弘
※前後編の2回にわけてお届けしています。後編は、
【行政機関をも巻き込む全く新しい未来の駐車場構想】をお送りします。