収益物件の持つオーナーにとって、もしもの時に備えることは重要であり、そこで役立つのが「保険」であることは多くの方が理解していることでしょう。しかしその保険は保有物件に対して適切にかけられているのか?と考えると、不安に思う方も多いかもしれません。そんな悩みに応えてくれるのが、オーナー専門の保険代理店である保険ヴィレッジ株式会社です。代表取締役の斎藤慎治さんに、どのようなサポートを行っているのかを、お伺いしました。
業界のルールブック「保険約款」を読み漁り
オーナーのリスクヘッジに役立ててきた
御社の事業内容を教えてください。
弊社は保険の代理店を営んでいるのですが、事業内容が少し特殊で賃貸不動産のオーナー向けの保険コンサルのみを手掛けています。具体的にいうと、賃貸不動産をお持ちの方のアパートの火災保険や相続・節税対策の生命保険といったカテゴリーに特化しています。実は全国的にこれに特化している保険代理店は、ほぼないそうです。不動産で保険というと、皆さんが最初に思い浮かぶのは火災保険だと思いますが、ここには特に専門家が少ないと言われています。私はもともと大手損保会社を経て保険代理店を創業しましたが、なぜこの分野に飛び込んだかというと、約10年前に私自身が不動産の賃貸オーナーを始めて何年か経験していくうちに「これは専門的な知識が必要だ」と感じたからです。それで改めて火災保険の勉強に取り組み、皆さんが一番苦手意識を持つ「保険約款」を相当読み漁りました。その結果、「これは大家さんにふさわしい保険ではないか」といったものを、たくさん見つけ出しました。「オーナーの目線を入れて、ぜひ皆さんに紹介したい」という思いが、この事業を始めるきっかけとなったのです。
どういう課題を抱えているオーナーさまをサポートされていらっしゃいますか?
オーナーの共通の悩みは、経費をどのようにカットしていくかでしょう。現在は賃料を上げられる要素がほぼないと言われているので、利益を確保するためにはコストを抑える必要があります。その際、オーナーに立ちはだかる3大経費は、「金利」「設備投資・修繕費」「税金」。その中で金利を除く2つは、保険で抑えることが可能です。だから経営がうまくいっている、いっていないに関わらず、お金を残そうとするならば、どうしても保険の力を借りる必要があります。修繕費については、昨今、これだけ数多くの災害が起きる状況にいれば、オーナーでなくても大変な被害を受けるわけです。ここに火災保険が役立つということは皆さま周知の事実だと思うのですが、オーナーにはオーナー特有のリスクがあります。それを見つけ出してヘッジする手立てを提案するのが、私の仕事です。
知ると知らないでは数百万単位の差異が発生
保険の有効なかけ方をアドバイス
具体的にお客さまにどのような提案を行ってきたのか、事例を教えてください。
弊社の事業の中でもっとも取り扱いが多いものは、建物に付属されている機械設備に関する保険です。例を挙げればエアコン、給湯器、換気扇、大きなものでいうと自動ドア、エレベーター、給水ポンプ。マンションにはこういった機械設備がたくさんついています。これらが壊れてしまうと、待ったなしで直さなくてはいけない。弊社はこの故障のリスクを抑え込める保険を得意としています。実際に火災保険には「電気的・機械的事故補償特約」という特約があり、電気的・機械的事故によって付属機械が故障した場合の修繕のため、もしくは交換のための費用をお支払いできるようになっています。これは10年くらい前からある特約ですが、何に使われるのかを、一般の方はもちろん、プロの保険代理店の方もあまりご存じない。なぜかというと、約款の理解が十分でないとこの特約の使い方が理解できないからです。この特約があるオーナーと、ないオーナーでどれだけ差が出るかを考えたとき、1年では大した差は出ないかもしれません。しかし10年経つと、経営自体に響くくらい、ものすごい差が出てくるのです。私の取引先でも数多くの物件を持っているオーナーは、当然管理する付属機械も多い。例えばオートロック、インターホン、消火設備、といったものが壊れると、数百万単位かかります。これらの修繕費が保険で出るか出ないかを知っていれば、経営的にはまったく違ってくるでしょう。
他にも保険に関してオーナーさまが気を付けなくてはいけないことは何でしょうか?
保険は掛け過ぎてもよくないのです。たとえば法人名義で中古の賃貸物件を購入した場合、建物の簿価(資産価値)に対して火災保険金額が高額過ぎると、全焼した場合などにこれらの差額が雑収入にあたるため、多額の法人税等が課税される可能性があります。火災保険における建物評価額は「再調達価額(=新築価格)」を基準としているので、簿価(資産価値)との隔たりが過大になる傾向にあります。弊社ではそうならないようなアドバイスも欠かさず行なっているので、やみくもに多くかける提案は行いません。突然多額の納税が発生することも賃貸経営のリスクなのです。
管理会社さまの改革の一環として
火災保険の知識をメディアで伝達
御社の強みは、どういったところにあると思われますか?
賃貸物件は非常に事故が多いものです。弊社はその事故をコントロールするためのシステムを早期のうちに作り上げました。これがないと効率的な管理ができませんし、他の代理店がこのシステムを手に入れない限りは、たぶん同じ仕事はできないでしょう。10年近くこの事業を手掛ける中で、類似業種が出てこないのはそこにひもづいているのかなと思います。
事故管理システムを持つことで、どんなメリットがありますか?
たとえば1人の方が複数会社を持っていて、さらにその会社が複数の賃貸物件を所有している、といったケースも非常に多く、普通の管理だとひもづけができません。しかし弊社はシステム化によって同一オーナーの物件同士をひもづけできます。また、「Aアパートの301号室のエアコンが壊れた」。「Cアパートの405号室の給湯器が壊れた」といった事故の履歴をすぐに引き出せます。すると同じような事故が起きた時に、過去の事例を添えることができるので、動かぬ証拠として保険会社に交渉しやすいのです。実は保険会社も事故のデータは3年分程度しか保管していません。弊社では今までのものをすべて残しているので、10年近く前の「何年何月何日、だれだれのどの物件の何号室で何がどう壊れた」という約2万例の情報があり、これが弊社の強みであろうと思います。
10年近く前のデータまで保管しているのですね。
またこの事故の処理を簡素化したことも画期的であると思います。弊社のスタッフであれば、ほぼ情報の取り出しができるようになっています。どうしても事故は手作業になりがちですが、そこをデータベース化して引き出しを簡単にしました。今、ご契約いただいているオーナーの人数は2,000人以上、軒数でいうと数万棟の物件、戸数でいうと、数十万個以上になっているので、それを少人数ですべて管理するのは不可能です。それを実際に今、動かせているのは、早めにシステム作ったおかげだと思います。パターン化されていてサンプル数も相当あるので、将来的には事故の処理はAIでもできそうです。
仕事に取り組むうえで、大事にしていることを教えてください。
なにはさておき「ご縁」です。ご縁がすべてをつないでくれていますし、今日の私を支えてくれているものだと信じています。だからこそ、人の恩を忘れない。それはお客さまとの間だけでなく、社員同士も同じですし、直接契約をしていない入居者の方もそうですね。入居者が納得されることが、不動産オーナーにとってもっとも大事なことですから。
不動産業界をどのように変えていきたい、と思っていますか?
今、実際に行っているのが「管理会社の改革」です。管理会社がもう少し深く保険を理解していたら、もっと保険を有効に使えるはずです。数年前から手掛けているのは、火災保険のありようを、さまざまなメディアを通じて訴えかけていること。現在は『家主と地主』という雑誌に連載を持っているのですが、管理会社とともにどのように解決していくべきなのか、ということを4年近く書き続けています。管理会社に弊社のような役割ができれば、オーナーは何も困らない。だから弊社はそれを指導できる立場にならなくてはいけない、と考えています。
(構成/文 桂泉晴名)